<東北の本棚>時間と場所の交差点

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<東北の本棚>時間と場所の交差点

[レビュアー] 河北新報


句集「風景」九里順子[著](邑書林)

 <炎々と新樹光なり窓ひらく>。窓を開け、一日が始まった。「風景は、その人が生きてきた時間と場所が交差する十字路に立ち現れる」と著者は言う。ここ3年の作品から300句余りを集めた。
 1962年福井県大野市生まれ。「里」「鬣(たてがみ)」同人。宮城学院女子大教授で、日本文学を講義する。
 大学は、仙台市の北部にある。<学生ら喉元ならべ夏のゼミ>。女子学生たちが学ぶ、みずみずしいキャンパス風景が広がる。その中に自分がいた。<囀の研究室に届く夕>
 日々の生活風景を詠んだ作品に、<青空を編み込むために桜かな><翻る蒲団ちひさく山笑ふ>などある。著者の住む団地の桜が満開になった。近所のおばさんたちが蒲団干しをする。「読んでくださる方の心にふっと風が入って来たなら、うれしい」と話す。
 故郷・大野市を<バス走る大野銀座の夕焼に><通りいつぱいホースで水撒き若き父>と描く。生家は街中にある、みそ・こうじ屋。幼い頃に見た商店街、家族、ふるさとの風景だ。
 <フロリダに颶風襲来米を研ぐ>。「颶風」とは「ぐふう」で「強く激しい風」の意味。米国に留学した時の作品かと思えば、「そんな経験はない」と笑う著者。これは空想の世界の風景であった。
 邑書林06(6423)7819=2160円。

河北新報
2017年2月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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