<東北の本棚>故郷に温かく寄り添う

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寒さの夏は

『寒さの夏は』

著者
錺, 雅代, 1946-
出版社
編集工房ノア
ISBN
9784892712647
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>故郷に温かく寄り添う

[レビュアー] 河北新報

 秋田県協和町(現大仙市)生まれの著者が、秋田を舞台に、その風土と文化が織り成す人間模様をつづった小説だ。短編6作品を収録。因習に縛られながらも農に強く生きる姿を描き、温かく故郷に寄り添う。
 表題作は、秋田に生まれ育った塔子と、神戸に住む仲良しいとこの千歳の話。塔子は先祖伝来の田畑山林や家を婿入りの亭主と守る。一方の千歳はファッション業界に勤める。冷夏に塔子を訪ねた千歳は農業の厳しさを肌で感じながらも無邪気に遊んだ子どもの頃を懐かしむ。塔子は低収入を嘆きつつ田舎の現実と向き合い、千歳に会うことで改めて農に生きがいを見いだす。「わたし、生きてたら畑作るし。これだけが楽しみだもの」。塔子の言葉は印象に残る。
 「ウマの系譜」は、著者がモデルという「私」と2人の叔父とのおかしな触れ合い。父方の叔父は航空自衛隊員で家の誇り、母方の叔父は共産党員で家族に疎まれる存在に。両家で飼う、性格や風貌が対照的な農耕馬になぞらえて2人の叔父の生き方を巧みに表す。「2人から多くを学び、今に生きる」と故郷を離れて「私」は気付く。
 たくましく土にまみれる農家の嫁を題材にした「花風車」。主人公は戦死した夫の弟と再婚。しゅうとめや義理の妹に冷遇されながらも、農作物の成長にわが子を重ね黙々と働く。「エゾヒガンザクラ」は、過疎化の進む集落で古いかやぶき家を継ぐ兄夫婦と、都会で暮らす妹の物語。旧家の慣習を描写した「くちどめ」、表題作の続編「庚申(こうしん)様の松」も収める。
 著者は1946年生まれ、大阪市在住。秋田大卒業後、田辺聖子さんら著名作家を輩出した大阪文学学校で学んだ。
 編集工房ノア06(6373)3641=2160円。

河北新報
2017年2月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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