<東北の本棚>孤の世界生き抜く力を

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「ひとり」の哲学

『「ひとり」の哲学』

著者
山折, 哲雄, 1931-
出版社
新潮社
ISBN
9784106037931
価格
1,430円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>孤の世界生き抜く力を

[レビュアー] 河北新報

 親鸞、道元、日蓮らの求道の旅をたどると、「『ひとり』の哲学」に行き着くという。西欧で言う「個」とは異なる。孤の世界と向き合い「己の生き方」を具現した先達の足跡を、宗教学者である著者が追い、日本思想の源流に光を当てた。今を生きる人々に、「孤独」から逃げずに向き合うことで、混沌(こんとん)の闇から抜け出すことができると教えられる。
 「独居老人」「孤独死」など、まるで「ひとり」が社会悪のように世間は言う。本当にそうなのか。人口減少時代、「ひとり」が増えるのに、その処方箋、哲学を語る人間が現れないところから著者の問題意識が始まった。
 浄土真宗の開祖・親鸞は、念仏への弾圧に遭い都から追放され、越後(新潟県)、常陸(茨城県)と流転の日々を過ごす。末法思想が流布し、王朝政権から武家政権に移行した。人々は皆、不安だった。悪の問題を真っ正面から取り上げたのが親鸞で「善人が救われるものならば、悪人が救われないはずはない」と唱えた。
 道元は比叡山で修行するが、尊敬すべき師はおらず、山を下りる。中国に渡り4年間滞在。師に「権力に近づくな。深山幽谷の地で己を養え」と教えを受けた。帰国して越前(福井県)に曹洞宗・永平寺を開く。たった一人で座り続ける彼こそ無の哲学の創始者だ。西欧の個人主義は、功利主義に走るきらいがある。道元は「己をすっぱり忘れること。そうすれば眼前の世界が、ありのままの姿で立ち現れる」と説いた。
 日蓮宗の祖である日蓮は安房(千葉県)の出身。都の貴族階級の出だった親鸞、道元とは異なり、貧しい漁村の漁師の子であった。他宗を激しく排斥。自己を限界状況に追い込み、「自己発見の思考軸にした」と分析する。
 著者は1931年米サンフランシスコ出身。東北大インド哲学科卒。国際日本文化研究センター(京都市)名誉教授(元所長)。
 新潮社03(3266)5111=1404円。

河北新報
2017年2月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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