<東北の本棚>夜空見上げて語り合う

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

<東北の本棚>夜空見上げて語り合う

[レビュアー] 河北新報

 <うぶすなの風さらさらと星の恋>。寝る前にいつも、夜空を見上げる。表題の「星辰」は星、星座の意味。心の内で星と語り合う。そんな作品を中心に372句を収録した。
 著者は1931年、八戸市生まれ。93年に俳誌「たかんな」を創刊、主宰している。「無礙(むげ)の空」に続く第10句集。
 <オリオンの肩の星見え年移る>。冬のオリオン座。星々を線で結ぶと、ギリシャ神話にある巨大な猟師の姿が浮き出る。その雄々しい姿に引かれる。星々が煌々(こうこう)と輝き、「なじみやすい星座」と言う。<天頂へ背伸び屈伸春北斗>。これは春の北斗七星で、ひしゃくの柄が上に来て、そこから水を流れ落としている形に見えた。
 東日本大震災発生の日に見た夜空は、<大震災春星は綺麗極めたり>と表現する。東京からの帰路、東北新幹線に乗り、栃木県辺りを走っている時に遭った。新幹線は止まり、中に8時間閉じ込められた。電気は停電、周りの状況も全く分からない。「トイレに行くのも大変だった」。その時、ふと列車の窓から見ると、驚くほど美しい星々の世界が広がっていた。
 それから真夜中に高架線路を、他の乗客と一緒に1キロほど歩いた。「こんなきれいな星空を見るのは初めて」と、口々に話した。バスに乗り、翌日南下して再び東京へ。航空券をやっと手に入れ、飛行機で八戸の自宅に着いたのは4日後であった。
 <心まで折るまじ春の星新た>。大震災の経験後、体調を崩した時、自らを鼓舞した作品である。<禦(ふせ)ぎても禦ぎても風冬岬><えぶり衆雪きしませて出陣す>。北国の風土、春待つ人の心を詠んだ。
 文学の森03(5292)9188=2880円。

河北新報
2017年2月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク