【聞きたい。】馳星周さん『比ぶ者なき』 日本を“造った”男の物語

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比(なら)ぶ者なき

『比(なら)ぶ者なき』

著者
馳, 星周, 1965-
出版社
中央公論新社
ISBN
9784120049095
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

【聞きたい。】馳星周さん『比ぶ者なき』 日本を“造った”男の物語

[文] 産経新聞社


馳星周さん

 「そもそも日本というのがどういう国だったのか? 多くの説がある中で、文献の少ない古代史に小説家の想像力が刺激された」

 『不夜城』などノアール小説の名手が手掛けた初の歴史小説は、飛鳥から奈良時代にかけての政治家、藤原不比等の一代記。時の権力と結託し、権謀術数を用いて意中の皇族を天皇にし、娘を皇后にすることで、後の藤原氏の繁栄の礎を築こうとする不比等の生き方が描かれる。

 不比等に興味を持ったのは4年前。20年に1度、神殿や宝物などを造り替え、祭神を新宮に遷(うつ)す伊勢神宮の式年遷宮についての新聞記事の中で、古代史家、大山誠一氏の言説が目を引いた。

 「大山先生の説によると、日本書紀も聖徳太子も藤原不比等の捏造(ねつぞう)だと。不比等ってそんなにすごい奴だったの? もし本当なら、千年以上一人の人間に日本人はだまし続けられたことになる」

 約3年かけて日本書紀や続日本書紀、古事記や万葉集などの基本資料、古代の解説書や人物伝を読み続けた。物語は、持統3(689)年、持統天皇の息子、草壁皇子が死去する場面から展開し、当時の皇位継承や遷都などが史実とともに語られる。不比等のほか、最も心引かれた人物が、持統天皇だ。天智天皇の娘であり、天武天皇の妻。中継ぎではなく、実質統治を行った女帝として知られる。

 「古代は子供を母方の家で育てる母系社会で、男系社会である武家社会と比べ、女性は伸びやかでおおらか。父親や夫の権力を利用したと悪くいう説もありますが、それは、男系社会に凝り固まった偏見。不比等という右腕がいたとしても、持統天皇が大きな改革を成し遂げた」

 今後は、不比等の子孫を主人公とした歴史小説を執筆し、3部作とする予定だ。デビューから20年。新境地を開き続ける。(中央公論新社・1700円+税)(村島有紀)

  ◇

【プロフィル】馳星周

 はせ・せいしゅう 昭和40年、北海道生まれ。横浜市大卒。平成8年『不夜城』でデビュー。翌年、同作で吉川英治文学新人賞。続編の『鎮魂歌(レクイエム)-不夜城II』で日本推理作家協会賞、『漂流街』で大藪春彦賞。

産経新聞
2017年2月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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