ボブ・ディランの21世紀 湯浅学 著

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ボブ・ディランの21世紀 湯浅学 著

[レビュアー] 井口尚樹(ライター)

◆豊饒の実りをたどる

 ノーベル文学賞の受賞者となったボブ・ディラン。彼が賞をとったというより、賞が彼に近づいてきたと感じたが、それだけの引力の持ち主である。

 ディランは定義できない。変貌をつづける曲者(くせもの)である。だから知りたくなる。彼の根底は巌(いわお)である。だからさらに知りたくなる。

 著者はいう。聴くほどに前向きな謎と宿題が次々に湧き出る、と。そして彼はむしろ若くなっていく、とも。そんな馬鹿(ばか)な。だが、嘘(うそ)ともいえない。

 現に、年間百ステージをこなし、シワは深くなったかもしれないが、声は活性化。近年のオリジナル作品には、新鮮な凄(すご)みがみえる。いっぽうで過去の発掘音源、たとえば一九六六年のライブ三十六枚組みなどを続々と発表。自伝の刊行、ラジオのDJ、絵画展も。絶えず、思わぬところから球を投げてくるディラン。

 二十一世紀に入ってからの豊饒(ほうじょう)な動きを著者は丁寧に、敬愛をこめて、そして率直に見つめる。話題のF・シナトラのカバー作についてはこんな風に。「ボブは、歌は生き続けている、ということを証明してみせているのだ」

 本書は百におよぶ彼の実り、CDや書籍、絵画や映画のガイドブックであり、リアルなレポートである。写真も多数。二十世紀のディランもいいが、現在進行形のディランを味わえる一冊だ。
(音楽出版社・2000円)

 <ゆあさ・まなぶ> 1957年生まれ。音楽評論家。著書『ボブ・ディラン』など。

◆もう1冊 

 H・スーンズ著『ダウン・ザ・ハイウェイ』(菅野ヘッケル訳・河出書房新社)。謎多きディランの生涯を描く評伝。

中日新聞 東京新聞
2017年2月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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