宮部みゆき×佐々木譲 対談「キングはホラーの帝王(キング)」―作家生活30周年記念・秘蔵原稿公開

対談・鼎談

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宮部みゆき×佐々木譲 対談「キングはホラーの帝王(キング)」―作家生活30周年記念・秘蔵原稿公開

佐々木譲さんと宮部みゆきさんがスティーブン・キングへの愛を語り合う貴重な対談! 宮部さんの『龍は眠る』は実は……。

 ***

 キングとの第一種接近遭遇

宮部 今日出掛けてくる前に、念のためにスティーヴン・キングの処女作の『キャリー』が日本で刊行された年を確かめてきたのですが、一九七五年なんですね。ということは、すでに二十三年もキングと付き合っていることになる。「思えば遠くへ来たもんだ」という感慨ですね(笑)。二十三年前といえば、まだまだ映画が元気のいい頃で、映画化された作品は必ずといっていいほど翻訳され、店頭にうずたかく平積みされていた。でも、わたしは映画より先に本で『キャリー』を読んでしまって、すごい小説だと思ったんです。

佐々木 今でもお若いけど、ずいぶんお若いときでしょう。

宮部 十五歳、高校一年生でした。

佐々木 ほう! そうなんだ。

宮部 その時が、キングとの第一種接近遭遇で、以後、ちょっと間が空いてしまったのですが、『呪われた町』のハードカバーを手に入れたのが、十九歳の時だったんです。当時は、キングといっても部数があまり出なかったから、よく手に入れられたなと思っています。

佐々木 今では考えられないことだけど、キングといっても、当時、日本ではそれほど注目されていなかったものね。ぼくの本棚には、パシフィカで翻訳された『シャイニング』の初版本があります。再版本では、映画化された時の主役のジャック・ニコルソンの顔写真がカバーになっていたでしょう。

宮部 えっ、初版? いいなぁ。今度見せてくださいー。

佐々木 お見せするだけですよ(笑)。『シャイニング』がキューブリック監督で映画化されて、その主役をジャック・ニコルソンが演ると決まったときに、原作を読んでいた友人が、「嘘だろう」って。

宮部 彼では最初っからコワイーって感じですものね。

佐々木 あの人は最初からキレているんだから(笑)、次第にキレてくる感じが出てこない。

宮部 キング自身もあの映画が気に入っていないらしく、今度、自分でつくり直しましたね。

佐々木 そうなんですか。それは知りませんでした。

宮部 でも、やっぱり小説のほうが、数段怖いし、おもしろい。原作はほんとうに怖かったですね。わざわざ家族がガヤガヤ騒いでいる所へ行って読んだ覚えがありますから。一人では怖くて、怖くて。

佐々木 ぼくは『シャイニング』を読みおわったあと、夜中にドアをロックしたかどうか見に行きましたものね(笑)。

 わたしのバイブル

宮部 キングの作品は、わたしにはバイブルみたいなもので、折にふれて読み返すものだから、もうボロボロ。彼の作品に心を揺すぶられた原体験がなかったら、きっと物書きになっていなかったでしょうね。それぐらいわたしにとっては、キングは神様みたいな作家なんですけど。

佐々木 宮部さんの『龍は眠る』を読んだとき、キングの強い影響を感じたけれども、宮部さんにとってキングは、それほど大きな存在なんだ。

宮部 あの作品は、わたし自身、キングの完全なエピゴーネンになろうと思って書いたんです。

佐々木 『IT』が出る前ですか?

宮部 前です。

佐々木 それをお訊きしたのは、嵐の中でマンホールに子供が落ちて亡くなる場面があるじゃないですか。あの場面が『IT』の冒頭と雰囲気が似ていたから。でも、宮部さんのほうが先だったんだ。

宮部 『デッド・ゾーン』が出た頃じゃないかと思います。

佐々木 『龍は眠る』のほうが超能力について、キングより説得力がある。

宮部 ありがとうございます。あの作品を書いている時は、すごく幸せな気分でした。コスプレ状態で、キング、キング、キングって感じ(笑)。

佐々木 なるほど。ちょっとキングを試みてみようというところだ。

宮部 たとえ非難されてもいいから、どうしても一回試してみたかった。

佐々木 ぼくがジャック・ヒギンズをやってみたようなもんなんだな(笑)。

宮部 どの作家にも、好きな作家に取り憑かれたようになって、ある作品を仕上げることがやっぱりあるんですね。

佐々木 それこそエピゴーネンと言わば言え、という心境になる時があるんですよ。

新潮社 波
1998年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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