<東北の本棚>決戦 エミシの尊厳かけ

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<東北の本棚>決戦 エミシの尊厳かけ

[レビュアー] 河北新報

 舞台は8世紀初頭の東北。エミシの大地を植民地化するウェイサンペのやり方は苛烈を極めた。「ウェイサンペ」とはヤマト政権を擬した呼称。服従か抵抗か。歴史に基づく物語で戦乱、人々の心の動きを迫真の表現で描く。古代東北をテーマにした長編小説では最高峰だろう。エミシの尊厳をかけた決戦が、ひたひたと迫る。
 ピタカムイ大河(北上川)を中心に、奥羽の人々は平和に暮らしていた。そこに帝(みかど)の命を受け、ウェイサンペは軍を進め、鎮所(仙台・郡山遺跡)を築いた。凶作が続き、エミシたちは種もみを借りる。利息が10割、返せない場合は女を奴隷に出せと要求される。故郷のケセ(気仙)を出て諸国修行の旅に出た若者マサリキンは渡し場で、奴隷として連れ出される美しい歌姫チキランケと出会う。
 表では税を取り立て、裏では盗賊団をそそのかしてエミシから収奪を繰り返すウェイサンペ。「エミシの自由の大地に逃げよう」。若者は娘の手を引く。だが戦乱の中ではぐれ、チキランケは鎮所の長官に奴隷として差し出された。2人の出会いと別れを軸に物語は展開。マサリキンも加わったエミシはウェイサンペと対峙するピラヌプリ(石巻・欠山)で最後の決戦へ。
 著者は1940年生まれ、大船渡市出身。東北大医学部卒。帰郷して開業する。言語学者でもあり、アイヌ語、古代エミシの言葉の影響を受けた気仙地方の言語を「ケセン語」と呼ぶ。本書に登場する地名、言葉はアイヌ語風の造語だ。カッコ内の地名は、実在の地名を比定した。表題の「ホルケウ」は狼(おおかみ)の意。
 エミシは「自由と平等の国」であった。長(おさ)は「チャランケ」(話し合い)で決める。理想郷を踏みにじるヤマト政権。アテルイから奥州藤原氏、そして現代へ続く東北の歴史が、二重写しになって見えた。幾千年もの間苦しめられた「魂の叫び」が、この物語の底流にはある。
 KADOKAWA(0570)002301=上・下各1944円。

河北新報
2017年2月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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