原田宗典さん「20世紀にケリをつけようと思った」|あの人の憧れの一冊 第1回

こんな本を読んできた

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 ご自身で著書を何冊も出版されている作家の方でも、自分では書けない、この本にはまいった、こんな作品を書けたら、と憧れている一冊はあるといいます。そんな著者の方にお話を伺う「あの人の憧れの一冊」第1回は作家の原田宗典さんがゲストです。原田さんは10年ぶりの長篇小説『メメント・モリ』を上梓されたばかり。今作に繋がるあの無頼の作家の一冊を紹介してくれました。

――原田さんの新作『メメント・モリ』は、内容と言い書きぶりと言い、異彩を放つ意欲的な長篇小説ですね。

原田 意欲的と言われると、ちょっとこそばゆいですね。長年、意欲がわかなくて困っていたのですから。そんな中で意欲をかき立ててくれたのは、色川武大『怪しい来客簿』でした。形としては短篇の連作なのですが、それぞれが「怪しい」というキーワードのもとに微妙に繋がっている。しかもひとつの短篇の中で、話は縦横無尽にあちこちへ飛ぶ。それでいながら収まるべきところに見事に着地する。そして読後感は、不思議な夢を見たかのような……。こういう作品を書いてみたい、と憧れを抱きました。

――なるほど。それで、これまではエッセイで「ダメな自分」をユーモラスに綴って来られた原田さんが、このたびは「碌でなしの私」を小説という形で自在に描かれたのですね。

原田 どうも僕は、未だに21世紀に馴染めてないようでして。20世紀にまだケリをつけてないような気がしてしょうがなかったのです。で、今回の『メメント・モリ』は、世紀末から今日までの紆余曲折を描くことで、何とかこの長い屈託にケリをつけようと。書き上げても、まだケリはついてないような気がしてますけどね。

――登場人物の一人、「古い友人のカメラマンのK」は、この本の装幀に使われている写真を撮った故・久山城正(くやましろまさ)さんだと思われますが。

原田 はい、そのとおりです。『メメント・モリ』を書いたのは、昨年2014年の9月から今年2015年3月にかけてです。これは亡くなった久山の家を毎週訪ね、彼のホームページに彼との思い出を綴るようになった時期とぴったり一致しています。彼の未亡人がとても聞き上手な人でね。毎週訪ねる度に『メメント・モリ』を朗読して、できた分だけ聞いてもらったのです。彼女にとっても僕にとっても、それが段々楽しみになってきましてね。遺影の久山も一緒に聞いていてくれるような気がしましたし。だからこの作品を最後まで書き上げられたのは、久山が力を貸してくれたからだ、と思っています。

――本作によって10年ぶりの復活をみごとに遂げた小説家・原田宗典の、今後の活躍が楽しみでなりません。

原田 次回作としては、今のところ三作進めています。うち二作は、まだケリがついてない世紀末の話。あとの一作は現在の話で、これはお芝居にもなりそうなので、僕自身も大いに楽しんで書いています。いずれも「気前よく」書くべし、と自分に言い聞かせております。乞うご期待。

『メメント・モリ』原田宗典/著
鬱病、家庭崩壊、自殺未遂、大震災、麻薬逮捕。21世紀の碌でなし文学誕生。
生からの一瞬の暗転として確固たる死を想え。不測の事態で流動する恥多き人生のただ中でこそ。時間を自在に往き来しながら、時に幻想的に、あるいは軽妙なユーモアのうちに、切実な記憶の数々を有機的につなぎ、やがて生命の喜ばしき光に到る……。泥沼のスランプを脱した著者10年ぶりの復活を証して、異彩を放つ長篇小説。
(ISBN:978-4-10-381106-0 発売日:2015/11/20 定価:1620円)

写真:久山城正

Book Bang編集部
2015年12月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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