【手帖】佐々木譲著『武揚伝』が「決定版」として再刊

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 幕末から明治にかけて活躍した政治家、榎本武揚を描いた直木賞作家・佐々木譲氏の『武揚伝』が、初刊から14年を経て再刊された。

 榎本武揚は幕末期の幕臣。長崎海軍伝習所で学び、幕府の軍艦・開陽丸発注に伴いオランダに留学した。帰国後は、戊辰戦争で抗戦を主張、旧幕府艦隊を率いて蝦夷地に脱出し、「蝦夷共和国」の総裁となる。箱館戦争(五稜郭の戦い)で新政府軍に敗れて投降するが、のちに明治政府のもとで外交官、技術官僚として活躍した。

 同書は、箱館戦争に敗れるまでの前半生を描く。平成13年に上下2巻で刊行され、翌年の新田次郎文学賞を受賞。15年には文庫化された。当時は「二君にまみえた変節漢」という武揚像がまだ根強く、事実上の政権として諸外国から認められたとされる「蝦夷共和国」もまぼろしだとする説が主流だった。そんななか佐々木氏は、「共和国樹立」というかたちで日本の近代化の理想を示した人物として、維新のうねりとともに魅力的な武揚像を打ち立てた。

 武揚は回想録などを残しておらず、前半生の事績に不明な点が多かったが、今回、新史料や新しい研究成果を踏まえて大幅に加筆修正した。蝦夷共和国の実在がほぼ常識となり、「決定版」も前作と大筋は同じだが、土方歳三との出会いの場面、昌平黌(しょうへいこう)時代の親友のその後、兄・勇之助もそろって五稜郭に行っていた事実などを盛り込んだ。

 北海道在住の佐々木氏は、『警官の血』などの警察小説で知られるが、本書を含む北海道3部作、蝦夷3部作と称される歴史小説群も発表している。「文庫の改版はよくあるが、単行本で再刊するのは珍しい。作家の思い入れが強く、決定版として全3巻で刊行することになった。まさにライフワークといえる作品」(中央公論新社の担当者・林里香さん)。中央公論新社刊、各2300円+税。

産経新聞
2015年12月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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