『駅伝マン』
- 著者
- アダーナン・フィン [著]/濱野 大道 [訳]
- 出版社
- 早川書房
- ジャンル
- 芸術・生活/体育・スポーツ
- ISBN
- 9784152095800
- 発売日
- 2015/11/20
- 価格
- 1,870円(税込)
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日本人のランニング好きに さまざまな角度から迫る
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
イギリス人ジャーナリストが、幼な子を含む一家五人で京都に移り住む。日本には北欧、シベリア鉄道を経由して辿り着いた。彼はランナーであり、ベジタリアンでもあり、子供達に独特な芸術教育を施すことで知られるシュタイナー学校に通わせる必要もあり、それのある京田辺(きょうたなべ)市の郊外に落ち着く。それらを調べ、手引きしてくれたのは、やはりこの地に住む親友のマックスで、しかも京都は駅伝競走発祥の地であった。
ここで、走ることと無縁な私は驚く。駅伝が飛脚に由来するとの知識はあった。駅は宿で、次の飛脚に手紙等を託したのだと。だから駅伝競走は手紙の代わりにタスキを引き継ぐのだと。一九一七年、「京都を出発し、はるか五〇八キロ離れた東京まで走る大会だった。京都中心部の三条大橋には、駅伝発祥の地を示す記念碑がいまも建っている」。こういうことをイギリス人に教わるのは実に妙な気分だ。
著者は思っていた以上に日本人が走ることが好きで、長距離に強いことに驚く。彼らはなぜそうまでして走るのか。大きなマラソン大会や駅伝競走がもの凄い視聴率を叩き出し、優勝チームや選手が脚光を浴びるのはなぜなのか。自分は走らない日本人が、沿道で声を嗄らして応援するのはいかなる心情なのか。しかもその数は半端ではないのだ。
ごくあたりまえと思っていたことを、イギリス人が大学や実業団チームに迫り、時に一緒に走り、次々と検証してゆく。ということは、ヨーロッパは違うのだ。何だか不思議の国ニッポンという気がしてくる。
京都と言えば比叡山延暦寺だ。ここには北嶺大行満大阿闍梨(ほくれいだいぎょうまんだいあじゃり)がいる。千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)を達成した僧に与えられる称号である。何と著者はその荒行(あらぎょう)の走る部分に着目し、インタビューを試み、このやりとりが白眉なのだ。
新年は元日のニューイヤー駅伝に始まり、翌日の箱根駅伝へと続く。ま、たいがい酔っ払っているのだが。