『怪しいものたちの中世』本郷恵子著
[レビュアー] 産経新聞社
山伏、ばくち打ち、勧進聖…。中世の日本には、世俗と超自然的世界のはざまにうごめく怪しいものたちが多くいた。朝廷や幕府の統治が近世に比べずっと弱く、自由な代わりに人々を保護する仕組みもない時代。怪人たちは社会各層にネットワークを張り巡らせ、神仏をダシに詐欺的な振る舞いをしつつも人々に娯楽や心の平安を与え、時には何もしない公権力に代わり公共事業を果たしもした。
著者は東大史料編纂(へんさん)所の中世史家。中世史の裏側で暗躍した「怪しいものたち」の役割を、『古今著聞集』などから豊富な事例を引き、ユーモアを交えて描き出す。(角川選書・1600円+税)