中江有里が賞賛する異色の歌人 拾った新聞で文字を覚えた“セーラー服の歌人”

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 3月16日放送のNHK総合「ひるまえほっと」に女優の中江有里さんが出演し、月に一度の「ブックレビュー」コーナーで子供と成長にまつわる三冊を紹介した。

 この日中江さんが紹介したのは、

孫と私の小さな歴史』佐藤愛子[著](文藝春秋)
未成年』イアン・マキューアン[著](新潮社)
セーラー服の歌人 鳥居 拾った新聞で字を覚えたホームレス少女の物語』岩岡千景[著](KADOKAWA)

 の三冊。

123『孫と私の小さな歴史』佐藤愛子[著](文藝春秋)、『未成年』イアン・マキューアン[著](新潮社)、『セーラー服の歌人 鳥居 拾った新聞で字を覚えたホームレス少女の物語』岩岡千景[著](KADOKAWA)

■小説家の祖母が孫と作った爆笑年賀状

『孫と私の小さな歴史』は小説家の佐藤愛子さんが孫が20歳になるまで、年賀状用にさまざまなふん装をして撮り続けた写真をまとめた一冊。撮影秘話や年頃になってきた孫の「嫌だった」との激白など、爆笑と温かさに溢れた家族の歴史に触れられる一冊となっている。「晒し首」や「死体と小坊主」佐藤さんがちょうちんブルマを履いた「運動会」など、お正月に届いたらぎょっとするようなふん装に中江さんは「ふざけているように見えるが、真面目にふざけている。“やりきってる感”があって面白い」と語った。またエッセイや対談などで親、子、孫の三者三様の考え方がよくわかる楽しい本になっていると紹介した。

■輸血を拒む少年と裁判官の物語

『未成年』はイギリスを舞台にした傑作長編。裁判官の女性の元に宗教上の理由で輸血を拒む少年の審判が持ち込まれる。聡明な少年と交流を重ねるうちに二人の間には絆が生まれる。そして彼女が出した結論とは。中江さんはイアン・マキューアンの小説が大好きだと告白。「今作は設定が興味深い。引きずり込まれる内容だった」と語る。難しい裁判をこなしてきた女性裁判官だが、この審理の過程で他人の人生は変えられるわけがない、という事実に気づく。しかし少年の未来を拓きたい、変われると信じたい、思いを託したいという気持ちが交錯する。中江さんは「人間の強さと弱さをみたような気がしました。豊潤で素晴らしい読書体験ができました」と絶賛した。

■拾った新聞で字を覚えたセーラー服の歌人

『セーラー服の歌人 鳥居』は成人した今もセーラー服を着続ける異色の歌人・鳥居さんの半生を描いたノンフィクション。鳥居さんは幼い日に見た母の自殺、児童養護施設での虐待、ホームレス生活を乗り越え、拾った新聞で字を覚え、短歌を詠みはじめた。彼女は短歌を詠むことにより救われてゆく。中江さんは「彼女が思いを表現して変わってゆく過程が非常に素晴らしい」と語り、「芸術はお腹をみたしてくれるわけではない、でも他では満たせない『心』を満たしてくれる。彼女は短歌に出会い、自分で自分を救おうとした。人間ってすごい力をもっているな」と鳥居さんの物語に共感をあらわした。そして鳥居さんの短歌を二首紹介した。

〈あおぞらが、妙に、乾いて、紫陽花が、あざやか なんで死んだの〉

〈思い出の家壊される夏の日は時間が止まり何も聞こえぬ〉

 番組司会の山本哲也アナウンサーは「鳥居さんの人生と歌が両輪で突き刺さってくるようだ」と感想を語った。

 今回の三冊は奇しくも子供や成長過程の人を題材にしている。中江さんは「成長してゆく段階のなかで苦労があったり、喜びがあったりした。自分も同じようなところを辿ってきたことを思い出す。本を読むということは時間旅行をするような気分になる」と読書の楽しみを語った。

「ひるまえほっと」はNHK総合で月曜から金曜11:05からの放送。「ブックレビュー」コーナーは月に一度放送される。

Book Bang編集部
2016年3月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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