【聞きたい。】イアン・トールさん 『太平洋の試練 ガダルカナルからサイパン陥落まで 上下』

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【聞きたい。】イアン・トールさん 『太平洋の試練 ガダルカナルからサイパン陥落まで 上下』

[文] 中村将

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イアン・トールさん

■西洋の歴史家とは別の観点から

 「西洋の歴史家によって書かれた太平洋戦争に関する多くの歴史書は大きな間違いを犯している」と指摘する。陸上戦がクローズアップされすぎて、海上の戦いはそれに付随するものでしかない-という歴史書があまりに多いというのだ。

 「地図をみれば一目瞭然。太平洋戦争は誰が海を制するか、誰が空を制するか、という戦いだった」

 今作は日米両海軍の激突を当事者の日記や手記、証言、公刊戦史などの資料をもとに描いた前作『太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで』(文芸春秋)の続編にあたる。真珠湾攻撃から破竹の勢いで戦いを優位に進めていた日本はミッドウェー海戦で空母4隻と艦載機を失い、大敗を喫した。日本は反撃に出たが、戦略的に失敗し壊滅的打撃を受ける。

 ただ、ストーリーは戦勝国側の視点だけに立って書かれたものではない。読み進めていくうちに引き込まれる理由がそこにある。

 1970年代後半から80年代前半の11歳から14歳までの多感な時期を父親の仕事の関係で東京・広尾で過ごした。「日本人にとって戦争が遠い昔のことではないと感じた。太平洋戦争に関心を抱いた。あのころの日本を鮮明に覚えているから西洋の歴史家とは別の観点から戦時中の日本、日本人を書きたいと思った」

 投資銀行で働いた後、独学で歴史を学んだ異色の海軍史家である。多くの資料に接して気づいたのは「戦時中に書かれた日記や手紙は記憶をたどった証言よりも信頼性が高いことだ」という。

 貴重な資料の内容を紡ぐ作業が提督や一兵卒ら登場人物の性格や、ときには感情をも浮かび上がらせ、読者を戦時中の太平洋へと誘う。日本の敗北が濃厚となるのが今作。3部作の完結編はいかにして日本が降伏していったのかがテーマ。「毎日書いています」。すでに筆を走らせている。(文芸春秋・各巻1900円+税)

 ロサンゼルス 中村将

 ◇

【プロフィル】イアン・トール 

 Ian Toll 1967年生まれ。ジョージタウン大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院公共政策学修士課程修了。『太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで』など。

産経新聞
2016年4月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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