『神の値段』
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【聞きたい。】一色さゆりさん 『神の値段』
[文] 渋沢和彦
■「実に読ませる」美術ミステリー
「受賞の知らせをいただいたときはそれ以上にプレッシャーを感じ、物書きとして生きていきたいと気合を新たにしました」
本著は『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作。美術業界を舞台にした美術ミステリーで、「業界描写が実に読ませる」などと評価を得た。
ギャラリーのオーナー、永井唯子が謎の死を遂げる。アシスタントの佐和子は人前に姿を見せない現代美術家、川田無名(むめい)を追い、死の真相を探る。
書くヒントとなったのは、現代美術家、河原温(かわらおん)の訃報だった。河原は「時間」や「存在」をテーマにした観念的な作品で世界的に知られたが平成26年に死去した。公式の場に姿を見せず、昭和40年を最後にメディアからインタビューを受けたことがなく、実像が謎に包まれていた。
「一部の人はすでに死んでいたのではないかと思っていた。しかし、死んだのにまだ生きているのではないかという疑惑があり、訃報は驚きだった」
本書の重要人物の川田もメディアの前に姿を見せることはない。生きているのか死んでいるのか、どのように制作しているかも謎で、実在した河原とだぶってしまう。
東京のギャラリーに3年間勤めていた。「どのように作品が流通し、美術の世界が動いていくのか知ることができた」
美術の世界に身を置いた経験が文章の中で光る。「アートは理解するものではなく、信じるものだと思います」など、登場人物が語る言葉は実感がある。
美術の世界は社交がつきもの。本書にはセレブが集まる香港のパーティー場面が登場するが、「子供のころから、親に原稿用紙を買ってもらい、短い物語をつくって挿絵をつけたり冊子にしたりして遊んでいました。実は華やかな場は苦手なんです。家で小説書いているのがいい」とも。
いまは京都を舞台にした第2弾の美術ミステリーに取りかかっている。(宝島社・1400円+税)
渋沢和彦
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【プロフィル】一色さゆり
いっしき・さゆり 昭和63年、京都府生まれ。東京芸術大学芸術学科卒。4月から美術館勤務。