『恐怖政治を生き抜く -女傑コロンタイと文人ルナチャルスキー』

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恐怖政治を生き抜く

『恐怖政治を生き抜く』

著者
鈴木 肇 [著]
出版社
恵雅堂出版
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784874300497
発売日
2016/02/20
価格
1,012円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『恐怖政治を生き抜く -女傑コロンタイと文人ルナチャルスキー』

[レビュアー] 佐藤貴生(産経新聞論説委員)

■粛清の嵐を免れた知識人

 副題にある2人は、ともに貴族出身で国際経験豊かな知識人だ。彼らがロシア革命の指導者レーニンや独裁者スターリンとどう付き合ったかを描く。ともにソ連で吹き荒れた粛清の嵐を免れており、いわば「恐怖政治」の下での処世術を振り返る内容だ。

 コロンタイ(1872~1952年)は1917年の10月革命後、女性初の大臣となるが後にレーニンに疎んじられる。党内抗争で敗れたコロンタイはスターリンに自ら「左遷」を求める私信を書き、権力側の軍門に下ると宣言。すると、スターリンは彼女にノルウェーへの駐在を命じ、「共産党の問題には介入しなさるな」という趣旨の異例の忠告をする。

 著者はレーニンとのせめぎ合いの中で、スターリンも「一人でも多くの有能な同盟者を必要としていた」とし、「コロンタイの北欧諸国びいきに不満を持ちながらも、長らく彼女をかばい続けた」と分析する。

 幅広い知識と教養を誇ったルナチャルスキー(1875~1933年)は10月革命以降、12年間も教育人民委員(文部相)を務めたが、寺院などの歴史的文化財やボリショイ劇場の存続を主張してレーニンらと対立する。

 レーニンの没後、スターリンはルナチャルスキーに電話で、「あなたは不必要なほど根深い自由主義者だ」と告げる。彼はその後、スペイン大使に任じられるが、赴任の途上で病が重くなり命を落とす。

 著者は粛清は準備されていた可能性がある一方で、ロマン・ロランやアインシュタインとも面識があった国際的名声が、それを妨げたのかもしれないとみる。

 現代のプーチン政権でも「ロシアの闇」は生きている。チェチェン問題や旧ソ連国家保安委員会(KGB)の過去を暴こうとした者は謎の死を遂げ、反政権の政治家やブロガーは抑圧されている。

 ロシアに自由と民主主義が根付く日はやって来るのだろうか。「闇」は底知れぬほど深く、レーニンやスターリンの時代ともつながっている。本書を読んだ感想だ。(鈴木肇著/恵雅堂出版・920円+税)

 評・佐藤貴生(産経新聞論説委員)

産経新聞
2016年4月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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