『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』
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貧困世代 藤田孝典 著
[レビュアー] 鶴見済(フリーライター)
◆給付による支援訴え
戦後の若者が社会に求め続けたのは、一言で言えば「抑圧からの自由」だった。その重要性には変わりはないが、それはある程度手に入ったとも言える。それよりも現在の若者が求めるのが、本書で主張される「貧困からの自由」や「支援」であるならば、その変化は重大だ。
ここで言う「貧困世代」とは、概(おおむ)ね十代から三十代の生涯貧困であることを宿命づけられた人々のことだ。前作『下流老人』で注目を集めた著者は、自らの世代を監獄に閉じ込められた囚人に例える。その彼らが、企業の奴隷のように言われた高度成長期の労働者を羨(うらや)んでいるように見えるのは、実に皮肉で象徴的だ。
本書が明らかにする若者の窮状のなかでも、働く環境の劣化や賃金の安さなどの労働問題は、貧困の元凶と言える。また借金でしかない奨学金などの教育問題、そして家賃の高さや企業による住宅支援の喪失といった住宅問題も若者を苦しめる。しかも行政は「働け」という就労支援しかしていないのが現状だ。
社会福祉士として生活困窮者支援に携わってきた著者が求めるのは、若者を社会的弱者として福祉の対象とし、給付による支援を行うこと。そして財源は富裕層への課税でまかなうことだ。つまり、再分配なき社会の構造転換までが目指されている。従来の反貧困運動の主張から一歩踏み込んだ、明快な論理と言える。
(講談社現代新書・821円)
<ふじた・たかのり> 1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。
◆もう1冊
阿部彩著『子どもの貧困』(岩波新書)。心身や将来などに不利益をもたらす子どもの貧困の事例を挙げ、対策を考察。