燃える森に生きる 内田道雄 著

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燃える森に生きる 内田道雄 著

[レビュアー] 桜木奈央子(フォトグラファー)

◆豊かさ支えて犠牲に

 低価格のコピー用紙や、植物油脂を原料とした食品の裏にある厳しい現実を、私たちは知っているだろうか。本書はそれを明らかにした渾身(こんしん)のルポである。

 「生命の宝庫」である熱帯林が広がるインドネシア・スマトラ島。しかし今では自然の森は破壊され、人工的な植林地が広がっている。リアウ州は面積の25%が製紙用のアカシアやユーカリ、30%がパーム油の原料であるアブラヤシの「木の畑」だ。そこでは低賃金労働者が働き、さらなる大規模栽培のために森が破壊されている。

 また土地をめぐる争いが頻発し、立ち退きを拒んだ村人は警察によって強制退去させられた。ヘリコプターから落とされた焼夷弾(しょういだん)で家を焼かれ、村は消えてしまった。まるで戦争のような森をめぐる実情を、知れば知るほど愕然(がくぜん)とする。著者は言う。「私も含め、油ヤシを利用しているすべての人の責任なのだ」と。

 私たちの「豊か」な生活を支えるための代償はあまりに大きい。その犠牲を知らないまま利便さを享受する生活は、本当に「豊か」なのだろうか。美しい森で静かに生きていた人々や動植物の、どれだけの命が消えただろう。

 「森がなくなれば神もいなくなる。私たちは何を信じて生きていったらいいのでしょうか」という森の民オランリンバの声が、耳に残る。

 (新泉社・2592円)

<うちだ・みちお> 1962年生まれ。フォトジャーナリスト。著書『サラワクの風』。

◆もう1冊 

 E・シュトルジック著『北極大異変』(園部哲訳・集英社)。温暖化による解氷や資源問題など北極圏の今をリポート。

中日新聞 東京新聞
2016年6月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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