編集者・都築響一「読者の事は考えるな」聞く耳を持たないことの重要性を語る

テレビ・ラジオで取り上げられた本

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 7月3日NHKラジオ第1「マイあさラジオ」のコーナー「著者に聞きたい本のツボ」に『圏外編集者』(朝日出版社)の著者で編集者・写真家の都築響一さんが出演した。編集についての持論や伝説的な写真集『TOKYO STYLE』に込めた思いがたっぷりと語られた放送となった。

■編集術なんてない

『圏外編集者』は無名の才能を発見し、伝え続けるベテラン編集者が自分の本づくりについて記した仕事論。ベテラン編集者の仕事論というと、本の作り方が書かれているのかと思いきや、同書の冒頭から都筑さんは「本の編集に編集術やノウハウはない」と述べている。番組でもコミケや同人誌を例に挙げ「日本は自主製作本大国。誰にも教えてもらっていないのに何万冊と言う本が並び、世界中から買いに来るマーケットになっている。出版社をすっ飛ばして本が売れている。それをわかっていない人たちが出版不況という。時代が変わったというよりは自分たちが落としている」と話し、それは自分への戒めでもあると独自の編集論を語った。

■読者の事は考えるな

 都築さんは雑誌「POPEYE」や「BRUTUS」の編集部を経て現代美術やデザインの分野でも多大な功績を残した編集者で写真家。ヒップホップ、秘宝館、独居老人、スナックなどをテーマにした作品も多数ある。都築さんは20代の頃、雑誌編集の現場で編集長から言われた「読者の事は考えるな」という言葉に大きな影響を受けたという。「自分の興味ではなく、誰かは興味があるだろうと推測で動くことをやめる。読者の反応を見てそれを役立てようというのはよくないとわかった」と語り、「聞く耳を持たない」ことが大事だとも述べる。「聞く耳を持つことは誰かの後ろを走るということ。もの作りはその逆を行かないとだめなんです」と語り、面白いことをやり続けるには周囲の言葉に耳をふさぐことが大事だと解説した。

■取り上げられない9割の人々の暮らし

 都築さんの写真集『TOKYO STYLE』(筑摩書房)は東京のどこにでもある部屋たちを写した作品。ごちゃごちゃとした小さな部屋に注目したのは、それがニッチで珍しいものではなく、身近にあり大多数の人がそんな部屋で暮らしているからだと述べる。しかし建築雑誌やインテリア雑誌にはそのような部屋は全く出てこない。ごくあたりまえな9割の人々の暮らし方がテレビや雑誌では取り上げられないと指摘した。そしてその視点を地方にまで広げたのが『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』(筑摩書房)、『ストリートデザインファイル』シリーズ(アスペクト)だと語り、名所旧跡もないどこにでもある地方を取り上げる事により「劣等感を払拭させたかった」とその意図を解説した。

1『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』、『ストリートデザインファイル』シリーズ

 都築さんは今後どのような雑誌を作りたいかと問われ、自身の有料メールマガジン「ROADSIDERS’ weekly」に寄稿してもらっている「アマチュア」のレベルがどんどん上がっていると語り、「全員プロじゃない人の記事で作りたい」と熱く語った。

 NHKラジオ第1「マイあさラジオ」のコーナー「著者に聞きたい本のツボ」は毎週日曜6時40分ごろに放送。コーナーはNHKのウェブサイト(http://www4.nhk.or.jp/r-asa/340/)でも聞くことができる。

BookBang編集部

Book Bang編集部
2016年7月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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