「上司には決して逆らうな」佐藤優が説く組織論

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組織の掟

『組織の掟』

著者
佐藤 優 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784106106620
発売日
2016/04/18
価格
792円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「上司には決して逆らうな」佐藤優が説く組織論

[レビュアー] 楠木建(一橋大学教授)

 組織で動くような仕事は自分にどうも向いてないのではないか。そういう直感があって評者は今の仕事に就いた。評者が身を置いている大学も組織ではあるが、それぞれが個人単位で仕事をしているため、組織としてはかなりユルい。

『組織の掟』の著者佐藤優が所属していた外務省は霞ヶ関の中でももっとも官僚的な「役所中の役所」だった。著者自らの経験に基づいて、組織の中で生き残るために守るべき「掟」を論じている。だから、議論には強いバイアスがかかっている。普通の会社であれば、これほどの超ヘビー級の組織を探すのは難しいだろう。そんな組織では商売が立ち行かなくなり、淘汰されてしまうからだ。しかし、(かつての)外務省という「究極の組織」を対象にすることで、組織の本質が浮き彫りになる。そこが面白い。

「上司には決して逆らうな」「問題人物からは遠ざかる」「ヤバい仕事からうまく逃げろ」――実に世知辛い話が続くのだが、記述はきわめて具体的。著者と組織の周囲の人々との会話の引用が生々しい。

 東京地検に逮捕されたとき、著者は「金輪際、組織に加わって仕事をすることはしまい」と心に誓ったという。それでも著者は組織が嫌いではない。組織には組織に固有の「人間を引き上げてくれる力」がある。組織の嫌らしさをこれでもかと描き出すことによって、逆説的に組織の存在理由や強みを明らかにしている。著者一流の芸当を堪能した。

新潮社 週刊新潮
2016年7月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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