哲学者・國分功一郎「国民投票は簡単に道具として使われてしまう」危うさを指摘

テレビ・ラジオで取り上げられた本

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 大竹まことさん(67)が司会を務める文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ!」のコーナー「大竹メインディッシュ」に7月6日、高崎経済大学准教授で哲学者の國分功一郎さん(42)が出演した。イギリスのEU離脱問題や国民投票の危険性について言及した。

■離脱派は差別主義者だけではない

 3月31日までイギリスに滞在していた國分さん。番組ではEU離脱を決める国民投票前のイギリスの雰囲気を詳しく語った。離脱との結果は「誰にとっても寝耳に水。誰も予測できていなかった。そもそもキャメロン首相もどうせ残留に決まっているとタカをくくっていた」と現地でも予想外だったと解説。また離脱に投票したなかにはリベラルな人々もおり、どうせ残留だろうからと離脱に一票を入れてお灸をすえる、そう考えていた人もいるという。そしてイギリスは民主主義のプロセスを大切にする国なので、投票のやりなおしはありえないと解説した。

 そして離脱派のなかには、自分たちの国のことを自分たちで決められないEUの仕組みが、主権を制限していると訴えていた人々もいるという。そのように民主主義の基本に基づいた立場から反対していた人々もいるため「決して離脱派が人種差別主義者や移民反対の人だけではない」と冷静に分析した。

■国民投票の危険性

 しかし51対49でも物事が決定してしまう国民投票や住民投票は「為政者により簡単に道具として使われてしまう」と話し、国民投票は「国民の声に基づいてボトムアップでやるべきだ」と注意を促した。大阪で行われた都構想の是非を問う住民投票や、クリミアのロシアへの編入が問われた住民投票を例にあげ、住民投票が政争の道具として使われることもあると語る。

 大竹さんが日本で国民投票が行われるならば、と問うと、日本の国民投票法案には最低投票率が設定されていないことなど、法律上の不備があると國分さんは指摘。そして日本で国民投票が行われるならば、改憲についてだろうと語り「イギリスは国民の声が大きかったため、キャメロン首相は仕方なく国民投票を行った。日本は改憲政党が改憲を争点にすると票が取れないため、改憲を争点にすることを避けている。状況が全く逆」と選挙に勝ったからといって軽々に国民投票に持ち込むのはおかしいと注意を促した。そのうえで「改憲をすることが日本にとって必要だという主張があるならば、堂々と選挙で訴えればいい」と密かに進む改憲の動きに釘を差した。

■直感することが大事

 國分さんの近著『民主主義を直感するために』(晶文社)は評論集。民主主義を考えるうえで、現場で起こっている物事を実感できないとなかなか考えられない。だからこそジャーナリストや研究者が現場に行き、雰囲気や実感を伝える事が大事だと國分さんは訴えた。國分さんは沖縄の基地建設反対運動の現場に足を運び、建設が始まれば、辺野古の美しい海がトラック350万台分の土で埋め立てられる、その現場を見てきたという。そこで何が行われているのか、実感を持って感じることができれば、素直に意見が表明できると熱く語った。

 同書は「週刊新潮 6月23日号」 でも「著者は鋭い現代社会分析で注目される哲学者だ。権限さえ獲得すれば何をしてもいいと考える政権。特定の話題に触れることを忌避するメディア。今こそ民主主義を『具体的に体で感じ取る』ことが必要だと説く。辺野古を直感するための旅の報告も刺激的だ」と評されている。

大竹まこと ゴールデンラジオ!」は文化放送にて月曜から金曜午後1時から放送中。

BookBang編集部

Book Bang編集部
2016年7月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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