テロルの伝説 桐山襲烈伝 陣野俊史 著  

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テロルの伝説

『テロルの伝説』

著者
陣野 俊史 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784309024691
発売日
2016/05/26
価格
3,190円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

テロルの伝説 桐山襲烈伝 陣野俊史 著  

[レビュアー] 平井玄(評論家)

◆時代と闘う小説家の意志

 かつて桐山襲(かさね)という作家がいた。八冊の小説を書いて二十四年前に四十二歳で死んだ。と、まずは紋切り型で言おう。彼の文学的な格闘を描いた評伝だ。力作である。

 一九四九年に東京の阿佐谷で生まれる。六八年に早稲田大学に入り「全共闘運動」を体験する。その後「公務員として働きながら、夜、爆弾のような小説を書く」と陣野は記している。

 八三年に「パルチザン伝説」を文芸誌に発表。侵略戦争で財を成した大企業を連続的に爆破した「東アジア反日武装戦線」を素材にした作品だ。ところが、「週刊新潮」の記事に煽(あお)られた右の人々が「不敬」と騒ぎ出す。これに桐山を含む複数の人たちが密(ひそ)やかに立ち向かう「文芸の闘争」を著者が追体験するところから本書は始まる。

 八三年から九二年まで、もう手に入りにくい一冊一冊、すべての小説を解題として紹介し、それぞれに小論を付ける。残された作家のノートまで克明に読み込んだ。桐山が心から「憎んだ」であろうバブルな八○年代を「文の軌跡」として、十二歳年下の陣野が踏破した。この五百ページ近い厚さがそのまま注いだ熱量の証しだ。

 桐山の作品世界は「一九六八年の街頭に始まり、七二年の山岳に終わる僕たちの時代の叙事詩」(小説の一節)というだけではない。どの小説にも必ず「穴」が開いている。そこからオキナワへ、さらに南方熊楠の民俗学、山谷の闘い、大逆事件に絡んで石川啄木や難波大助の傍らへ、そして永山則夫の孤独へと潜り抜ける多重世界だった。

 つい昨日とも、既に四半世紀が過ぎたとも思う。当時はPCもスマホもない。桐山は手書きだったという。陣野の書きぶりを通して、そのペンに込めた小説の意志が伝わってくる。

 抒情(じょじょう)を拒否する者こそ最もよく人の心を謳(うた)う-。評者には長い間、桐山襲を読むことが辛(つら)かった。苛烈にして美しすぎる「叙事詩」。この評伝はその「辛さ」の中身を教えてくれる。
 (河出書房新社・3132円)

 <じんの・としふみ> 1961年生まれ。文芸評論家。著書『戦争へ、文学へ』など。

◆もう1冊 

 第三書館編集部編『新版 天皇アンソロジー(1) 「パルチザン伝説」ほか』(第三書館)。天皇をテーマにした小説やルポを収録。

中日新聞 東京新聞
2016年7月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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