『過去をもつ人』
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『過去をもつ人』荒川洋治著
[レビュアー] 産経新聞社
読書についてしたためた62編のエッセーを収める。強い印象を残すのは「読書という悪書」だ。
読書は「自分の頭で考える」ことのできる特別な能力を備えた人だけに許されると考えるショーペンハウアーの辛辣(しんらつ)な言葉を紹介しながら、著者はこんな感想をつづる。《本を読むことを人はこれまで肯定的にしか扱わなかった。そのために読者は自分を疑う機会を十分に与えられない。その意味でこの本のことばは、すべてに「甘い」いまのような時代にこそ向けられているのだと思う》
読書と現代をめぐる厳しくも温かな詩人の考察は心を打つ。(みすず書房・2700円+税)