【聞きたい。】言葉への信頼、劣化させるな 浅羽通明さん『「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか』

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「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか

『「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか』

著者
浅羽 通明 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784480068835
発売日
2016/02/08
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】言葉への信頼、劣化させるな 浅羽通明さん『「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか』

[文] 磨井慎吾

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浅羽通明さん

 このところ、日本のリベラル派の旗色が悪い。先日の参院選でも、野党4党は「改憲勢力による3分の2以上の議席確保阻止」を叫んで戦い、惨敗した。

 気づけば国政選挙は4連敗、原発は再稼働し、安保関連法も成立した。なぜ日本のリベラルは、かけ声の勇ましさとは裏腹に結果を出せないのか。著者の浅羽氏は一言、「政治を知らないから」と答える。

 最近のデモは気楽で参加しやすいと自賛しても、それで政権を脅す威力をも鈍らせたのでは意味がない。政治的実力を備えるには、人数や資金を確保するための組織化が不可欠であり、そこには強制動員や分担金などの犠牲が伴う。本気で政権打倒を目指すなら、そうした不快な現実にも目を向けた徹底的思考が不可欠だが「ほとんどの人が同類同士でウケる運動で自己満足してしまい、敵を倒す戦いとならない。まあ今回、野党共闘で政治の第一歩くらいは理解したようですが、そのくらいで満足していては甘すぎます」

 『ニセ学生マニュアル』『大学で何を学ぶか』などの著作で、1990年代の“ものを考える若者”に多大な影響を与えた著者。久々の新刊である本書は、「反安倍」に躍るリベラル文化人を俎上(そじょう)に載せ、見栄えはいいが物事を徹底的に考えようとしない、身内向け言論の病理を衝(つ)く。「あなたの論理を突き詰めていくとこういう結論になるよ、というのをその人に成り代わって考え、その限界を突きつける」。著者の根源を問う知性が、遺憾なく発揮された快著だ。

 身内で盛り上がり、現実を直視しない欺瞞(ぎまん)的言論の流通という点では、右も左と同様だという。「たまたま最近は左の方が目についただけ。たとえば右なら、反米で同じツッコミができるでしょう」。弛緩(しかん)した言論の横行は、知的世界を退廃させる。「狼少年と同じで、言葉(ロゴス)への信頼がどんどん劣化していく。論理が腐るんですよ。それを指摘したかった」(ちくま新書・860円+税)

 磨井慎吾

【プロフィル】浅羽通明

 あさば・みちあき 昭和34年、神奈川県生まれ。早大法学部卒業。近著に『昭和三十年代主義』『時間ループ物語論』など。

産経新聞
2016年7月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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