【手帖】日本人の美しい心で空撮した風景

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『空と大地』多胡光純

 モーターパラグライダーで滑空しながら撮影する新たな手法が注目されている。低空をゆっくり飛びながら撮影されるため、まるで自分が空中を浮遊しているかのような感覚になる。

 本書『空と大地』の著者、多胡光純(たご・てるよし)氏はこの分野の先駆者の一人だ。しかし、その作品は単なる風景の空撮ではない。探検家として目的の土地を訪ね、人々に話を聞き、そして飛ぶ。天空から新たな発見があり、再び人々に話を聞く。その遠近法の中で、地球の問題が見えてくる。

 中国の雲南省に「紅大地」と呼ばれる名所がある。土中の酸化鉄のために大地が赤いのだ。その赤い大地に、畑の緑がコントラストとなって絶景を生んでいる。しかし紅大地を空から俯瞰(ふかん)して、一部に植林された森を発見する。村の長老に話を聞くと、紅大地にはもともと豊かな森が広がっていたが、約50年前に溶鉱炉が建設され、その燃料として瞬く間に木々が伐採された。そして森の跡地を耕し、今の風景が生まれたのだという。しかし森を失った農地は、大雨のたびに流れてしまう。そのため一部で植林が行われたのだ。「紅大地」は環境破壊が生んだ「絶景」だった。

 本書で紹介される土地は、中国のタクラマカン砂漠や長江流域、そしてモンゴル、カナダ、マダガスカル。国内では北海道の阿寒湖やサロベツ原野、安芸の宮島など。多胡氏は土地を訪れると、まず空に一礼し、吹き流しを立てる。野宿をして風を知り、そして飛ぶ。撮影が終わると、東西南北に最敬礼し、吹き流しを引き抜く。そこには美しい日本人の心の所作がある。

 本書は三洋化成工業という京都の化学メーカーの広報誌に5年間にわたり連載されたフォトエッセーから16本を選んで再構成した。申し込みは同社ホームページ(http://www.sanyo-chemical.co.jp/)から。1300円+税。送料が必要。

産経新聞
2016年7月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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