ロダン 天才のかたち ルース・バトラー 著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

ロダン 天才のかたち

『ロダン 天才のかたち』

著者
ルース・バトラー [著]/馬渕 明子 [監修]/大屋 美那 [訳]/中山 ゆかり [訳]
出版社
白水社
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784560084984
発売日
2016/06/10
価格
8,580円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ロダン 天才のかたち ルース・バトラー 著

[レビュアー] 小倉孝誠(慶応大教授)

◆恋多い彫刻家の実像

 ロダンは近代彫刻の代名詞である。本書は同時代の文献だけでなく、未公刊の手紙や資料も参照しながら、この不世出の巨人の生涯を跡づけた評伝の決定版。

 青年時代は孤独な修行にいそしんだ。四十代になってから《カレーの市民》などを受注して、生活が安定したが、それは十九世紀末のフランスが共和政の理念を広めるため、町の広場や公的機関の中庭に彫像を設置したからだ。政治情勢が彫刻家の経済的安定をもたらした。

 ロダンと文学のつながりは深い。代表作《地獄の門》は、ダンテの『神曲』に想を得た。他方《バルザック》像は物議をかもした。これは文芸家協会(時の会長がゾラ)から正式に注文されたものだが、制作は大幅に遅れ、出来上がった作品は大作家にふさわしくないとして拒否された、という因縁がある。

 ロダンは弟子のカミーユ・クローデルやファンなど、数多い女性との関係で有名だった。最晩年に至るまで、官能的な体験をもち続けた。ロダンは女性を愛し、女性に愛されることで創作のエネルギーを得ていたのかもしれない。

 手堅い資料調査によって、ロダンにまつわるいくつかの誤解を払拭(ふっしょく)し、天才彫刻家の栄光と孤独を鮮やかに浮き彫りにする。十九世紀から二十世紀初頭の文化状況も明らかにして、読み応え十分だ。

 (馬渕明子監修、大屋美那ほか訳、白水社・8424円)

 <Ruth Butler> 1931年生まれ。アメリカのマサチューセッツ大名誉教授。

◆もう1冊

 R・M・リルケ著『オーギュスト・ロダン』(塚越敏訳・未知谷)。彫刻の巨匠についてつづった詩人の論考・書簡など。

中日新聞 東京新聞
2016年7月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク