「美女の方が落ちる!」結婚詐欺師も本音を明かす、大澤孝征さんのスゴい対話術!|この本が私を作った 第1回

ニュース

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

 私は小学校時代から弁護士を目指していたのですが、司法修習を終えて選んだのは検察官の仕事でした。検察官を選んだのは、中学校時代に読んだドストエフスキーの『罪と罰』の影響が大きいのです。
 『罪と罰』は、ラスクーリニコフという青年が、「目的が正しければ、手段は正当化される」と考え、高利貸しの女性を殺害し、その後、悩み苦しんで自首する話です。
 この小説では、殺人犯であるラスクーリニコフの気持ちの移り変わりが丁寧に描かれています。読んでいると、「そうか、殺人犯にはこういう気持ちの者もいるのか。決して、モンスターみたいな存在ではなく、理解できる存在ではないか」と感じました。罪を犯した者の心理に迫るのは検察官の仕事です。検察官に興味を持つきっかけとなった1冊です。

 検察官時代、私は、被疑者を怒鳴るようなことはほとんどしませんでした。罪を犯した者にも、それなりに理由があり、私でも理解できるはずだという前提で臨んでいたからです。『罪と罰』に学んだことかもしれません。

 夫婦間や、会社などでもそうだと思うのですが、人に本音を明かしてもらおうと思ったら、怒鳴ったりしてはいけないのです。むしろ、教えを乞うくらいがいい。
 結婚詐欺師を取り調べたときのことです。被害者は10人以上いて、しかも美女ばかり。詐欺師はさぞかし、美男子だろうと思ったら、さえない中年男でした。私は彼に聞きました。
「こんな美女ばかりすごいな。どうやったんだ。俺にも教えてくれよ」
それまで緊張していた相手も、満更でもない顔つきになります。
「検事さん、聞きたいの?」
「そりゃ聞きたいよ」
「うーん、どうしようかな、本当に聞きたい?」
「もったいぶらないで話せ。話せ。聞いてやるから」
「検事さんは知らないだろうけど、美人っていうのはさあ」
 彼の話によれば、美人はさほどモテないのだそうです。男性も振られるのが嫌だから、一番の美人には結婚を申し込まない。二番目、三番目の女性から結婚していく。なぜ一番の美人である私じゃないのか、と美人は不満に思っていることが多いそうです。
 そこに、医師や教授の肩書をつけた結婚詐欺師がやってきます。さえない見かけは「見かけがイマイチだから結婚できなかったのだろう」と警戒心を持たれないメリットになります。美男子が「医師で独身」と言って現れたら警戒しますよね。
 そして、他の女性から巻き上げたお金で、贅沢なデートをします。これは投資ですから、お金を惜しみません。すると美女は「今までモテなかったから、私にメロメロなのね」と思っているうちに、いつのまにか自分が虜になり、お金をだまし取られるのです。
 見かけがさえなくても、一番の美女を落とせるというところだけは、いい話ではないですかね(笑)。
 こうした詐欺師の話や、ヤクザの裏事情まで、被疑者に教えを乞うことで、色々な話を聞きだしました。検察官、いえ弁護士になってからもこれらの知識は大いに役立ちました。
 今度出した『元検事が明かす「口の割らせ方」』には、そんな自白や本音を引き出す様々な方法を掲載しました。

 どれだけIT技術が進化しようと、人間関係の基本はコミュニケーションだと思います。中高年になれば、部下がいて、お子さんもいることが多いでしょう。新入社員が突然辞めてしまったり、部下が不審な領収書を提出してきたり、お子さんが悩んでいる姿を見たりしたら、どうコミュニケーションをとればいいのか、いろいろと事例をあげて掲載しました。
 特に強調したいのは、話を聞く段階では怒鳴ったりしてはいけないということです。話を聞くことと、裁くことは別のことです。話を聞くことだけで、解決するケースも多いですからね。

 ***

『元検事が明かす「口の割らせ方」』大澤孝征/著
元検事が教える、人の本音の引き出し方。
パートナーに浮気の疑惑、最近部下が出してくる領収書が怪しい、子どもにいじめ被害の兆候が…。人の本音を引き出したいとき、プロはどう聞き、話すのか。元・検事が徹底的に解説。

Book Bang編集部
2016年8月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク