日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか 矢部宏治 著

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日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか 矢部宏治 著

[レビュアー] 三上治(評論家)

◆9条も骨抜きの実態

 刺激的な標題である。戦後一貫して戦争への反対を続けてきた、そして今もしている私たちに、既に日本は十分に「戦争のできる国」になっているぜ、という警鐘をこめているのだ。「戦争のできる国」への動きに反対する運動の中でも、現代までの日本の具体的な軍事態勢がどうなっているかは気になることだったが、本書はその実態を明らかにしている。それを知ることはやはり驚きだ。

 戦後の日本の「戦争」は、一言でいえばアメリカ軍の要請による自衛隊の海外での参戦だった。歴代の政府は憲法九条と立憲主義を盾にそれを拒んできた。しかし、その代償にアメリカの戦争に追随し、裏で秘密裏に戦争態勢の構築を進めてきた。この実態がアメリカ軍の指揮(隷属)下にある自衛隊も含め明るみにされる。戦後の新旧の安保体制や日米同盟の歴史を含めた史的裏付けも豊富であり、戦後史としても興味深く読める。

 アメリカが日本の基地を自由に使用できる基地権。創設された自衛隊がアメリカ軍の指揮下にある指揮権。これを支える政治体制としての日米合同委員会。その三つを軸に「戦争のできる」日本の態勢の現状をあぶりだす。それらの全貌を国民はほとんど知らされていない。日本は独立国家であり、憲法九条もある。「戦争のできる国」を疑問視もできるが、それを上回る説得力が本書にはある。

 (集英社インターナショナル・1296円)

 <やべ・こうじ> 1960年生まれ。書籍情報社代表。著書『戦争をしない国』など。

◆もう1冊

 豊田祐基子著『「共犯」の同盟史』(岩波書店)。岸内閣から安倍内閣まで、日米同盟をめぐる密約の歴史を検証する。

中日新聞 東京新聞
2016年8月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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