【話題の本】彼女たちが特別である理由 『1998年の宇多田ヒカル』宇野維正著
[レビュアー] 海老沢類(産経新聞社)
サッカー日本代表がW杯に初出場し、Windows98の発売とともに国内でインターネットが急速に普及した1998(平成10)年、宇多田ヒカル、椎名林檎、aiko、浜崎あゆみ、という才能あふれる女性ソロ歌手4人がそろってデビューした。この年、日本の音楽産業は史上最高のCD売り上げを記録した。
“奇跡の年”に何が起こり、4人はなぜ特別であり続けられるのか。音楽ジャーナリストが豊富な取材経験をもとに論じる。1月刊で、4刷2万5000部。「当時10~20代だった世代のノスタルジーを喚起している」と担当編集者。
日本の音楽業界では長らくレコード会社や大手プロダクションが制作の主導権を握ってきた。ところがデビュー曲「Automatic」がミリオンヒットとなった10代の宇多田ヒカルは、曲作りの全権を自ら掌握。既存のメディアを介さずにネット上でファンに直接メッセージを発信する手法でも支持を広げていった。
時代の転換点に世に出た4人の歩みから伝わってくるのは、自己プロデュース力の重要性、そして刺激し合える「同期」を持つ幸福だ。ほかの芸術はもちろん、ビジネスの現場にも当てはまる真理かもしれない。(新潮新書・740円+税)(海老沢類)