ミッション系学校の生徒が偽装工作? 「ゆとり世代」の牧師が語る今ドキ教会の“リアル”

イベントレポート

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『キリスト教のリアル』(ポプラ社)に収録された座談会に登場した川上咲野さん(日本基督教団牧師)を招き、同じく「ゆとり世代」にくくられる若手牧師の本音と実生活に迫ろうというトークイベント「ゆとりボクシですがなにか」が6月10日、東京・銀座の教文館で開かれた。登壇したのは川上さんのほか、聖学院中学校高等学校チャプレンの百武真由美さん、日本ナザレン教団小岩教会牧師の稲葉基嗣さんで、いずれも1984年以降の生まれ。同書の編著者である松谷信司(キリスト新聞社)の司会で、教会で感じた世代間ギャップや、「若手」ならではの苦悩、今後の展望などをフランクに語り合った。鼎談の一部を抜粋して掲載する。全編を収録した動画は以下のリンクで視聴可能(http://bit.ly/299xyIt)。

キリスト教学校のリアル

松谷 キリスト教学校の「リアル」について教えてください。

百武 入学してくる生徒の9割は聖書の開き方すら分かりません。でも、ここでキリスト教に出会って礼拝をした子どもたちは、その種を一生持って生きていくんだなと実感しています。ただ、教会に対するキリスト教学校の価値はあまり評価されていないのが現状です。教会から「お宅の生徒がうるさい」とか「礼拝中に寝ていた」といったお叱りを受けることも多いのですが、「申し訳ありません」と謝りつつ、そこでその子どもたちを起こしてくれるような「言葉」に触れさせてほしいなとも思います。

松谷 週報(教会で配られている礼拝の式次第)だけもらって帰る生徒もいるとか。

百武 そうですね。たまに「週報強奪事件」が起きると、生徒を連れて謝りに行かなければなりません。他にも「週報偽造」とか……。

川上 ありますよね。

百武 レポートに週報を張って出すことになっているので、架空の教会を作るんです。「そのエネルギーがあったら教会に行けば」とも思いますが。

松谷 考えますね。

百武 でも、そういう子が卒業後にクリスチャンになっていたりすると、「やっぱりね」と思います。

松谷 川上さん自身はキリスト教学校のご出身ですが。

A左から、松谷信司さん、川上咲野さん、百武真由美さん、稲葉基嗣さん

川上 宗教主任の先生が素晴らしい尊敬できる牧師で、この人のようになりたいと思って同じ大学の神学部に行きました。この人と出会っていなかったら、牧師にも聖書科の教員にもなっていなかったと思います。

百武 そんな生徒がいたら嬉しいですね。

松谷 稲葉さんの教会にも聖学院の生徒がいらっしゃるそうですが、学校との関係をどうお考えですか。

稲葉 実際、どのように受け入れたらいいのかなと悩みますね。できればそういう子どもたちにもキリスト教を信じてほしいと思いますが、何を求められているのか、どういうアプローチが求められているのかなと。

百武 学校として年1回、近隣の教会の方々をお招きする懇談会を開いていて、学校として教会に願っていることや、学校が教会のためにできることについては話すようにしています。せっかく生徒が行っても、教会の方が気を使って聖書と関係ない話をしてくださったりするんですが、「ありがたいけどそうじゃない」と思ってしまいますね。

松谷 「単位目当てで来るな」と追い返す教会もあるという話を聞きました。

百武 「献金しなかったら怒られた」という生徒はいました。教会の立場からすれば言いたくなる気持ちもわかりますが、生徒には気の毒なことをしたなと。

松谷 生徒の立場を経験している身として、教会で心がけていることはありますか?

川上 初めて来る生徒にとって教会は閉ざされた空間なので、勇気を持ってきてくれた子どもたちには必ず本物の礼拝を体験させたいと思っています。説教も妥協しません。

教会のコレカラ

松谷 今後の展望などを教えてください。

川上 これから、女性の牧会者も増えますし、相手が牧師ではないという女性の牧会者も出てきます。そういう時に、ぜひみなさんの教会でも受け止めて、一緒に考えていただきたいと思います。女性はいつか辞めるかもしれないからと思って拒否せず、結婚しないと決断された方も、子どもを生まないと決めた人も受け止めてほしい。多様な牧師がいたら多様な人に寄り添えると思うので、牧師の固定概念を捨てていただきたいなと思います。

百武 教会としての多様性はもっと豊かにあっていいと思います。教会と学校、教会と施設という範囲も含めてもっと対話があっていい。同時に、変えていいものと変えてはならないものの線引きをしていくことが重要で、そのイニシアティブをとれる30代、40代の牧師を教会が育ててくださればいいなと思います。たとえば教会と併設された牧師館など、旧世代のシステムでも機能している部分はありますので、どっちもありだという幅の広さは必要だと思います。牧師館のあり方などは、根本に関わる問題ではないような気がしますので。

稲葉 基本的にお二人の意見に賛成です。ナザレン教団では、上の世代の牧師が辞めるに辞められないという状態が続いています。今後10年以内に必ず世代交代が起こるので、それを前に今いるすべての世代で何か一緒にチャレンジしたいという思いはあります。

松谷 ありがとうございました。

 ***

■川上 咲野(かわかみ・さきの)
1987年生まれ。共愛学園高等学校に入学した際にキリスト教と出逢い、高校3年時に受洗。同志社大学神学部、同志社大学大学院神学研究科と進 み、神学生として籍を置いていた教会や夏期伝道先の教会での出会いから、学校にも教会にも仕える牧会者を志す。大学院修了後、日本基督教団紅葉坂教会担任教師を経て、2015年6月より1年間、恵泉女学園大学キリスト教教育主任代行を務める。

■百武真由美(ひゃくたけ・まゆみ)
1984年生まれ。小中高大とキリスト教学校に学ぶ。立教大学文学部キリスト教学科卒業後、埼玉県のキリスト教中高に3年勤務した後、東京神学大 学に編入学。同大学院修了後、2014年より聖学院中学校高等学校副チャプレン。現在、同校チャプレン、日本基督教団滝野川教会協力伝道師。趣味は美術館 とデパ地下をめぐること。

■稲葉 基嗣(いなば・もとつぐ)
1988年生まれ。茨城県出身。日本ナザレン教団小岩教会牧師。2011年に日本大学経済学部を卒業後、日本ナザレン神学校へ入学。ナザレン神学校を卒業後、浦和教会で牧会。15年4月より小岩教会に着任。趣味は音楽鑑賞、ギター、将棋、読書。家族は、妻と娘と猫。

■松谷 信司(まつたに・しんじ)
1976年生まれ。福島県出身。週刊「キリスト新聞」、季刊「Ministry(ミニストリー)」編集長。テレビ局勤務の後、5年間の小学校教員生活を経て、長男の誕生を機に転職。カードゲーム「バイブルハンター」、教派擬人化マンガ「ピューリたん」などを企画。「いのり☆フェスティバル」実行委員会代表。

キリスト新聞
2016年7月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

キリスト新聞社

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