「考古学エレジー」の唄が聞こえる 澤宮優 著 

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「考古学エレジー」の唄が聞こえる 澤宮優 著 

[レビュアー] 岡村道雄(考古学者)

◆泥まみれ夢追う日々

 考古学エレジーの唄に乗せて語られる昭和戦後の二十年代から昭和末までの発掘草創期と、発掘に明け暮れた人生の物語である。全国各地で昼も夜も懸命に行われた多くの発掘調査や、その延長にあった重要遺跡保存運動のドキュメントでもある。評者と同世代の主に大学生や高校生が発掘に駆り出され、泥まみれの厳しい現場作業だったが夢と情熱をもって掘り進んだ。現場近くのプレハブに合宿し、夜は車座になって酒を飲みながら語り「♪町を離れて野に山に…」と哀歌を唄った。悩みながら掘り発見を重ね、成果を世に問うて、地域の歴史の重要性を論じて理解と協力を得ようと努力した。

 考古学への若い情熱と意欲、生きざまそのものだったと思う。大塚初重や下村智、在野の森本六爾(ろくじ)や学生考古学グループを登場させ、そんな考古学群像を描く。

 しかし、緊急発掘は高度経済成長や列島改造などが生んだ鬼っ子であり、地主や開発業者の協力、発掘費用の負担など多くの問題がある。そんな時代性と現実の問題も底流に流れる哀歌は、関東・近畿・九州を中心に歌い続けられた。

 バブルがはじけ、発掘件数は半減し、一方で調査機関が整って発掘調査法、費用負担や遺跡遺物の取り扱いルールなども整備され、安定期・成熟期に入った。あの時のような情熱と夢は考古学エレジーの唄と共に潰(つい)えてしまうのだろうか。
 (東海教育研究所発行、東海大学出版部発売・2484円)

 <さわみや・ゆう> 1964年生まれ。ノンフィクション作家。著書『打撃投手』など。

◆もう1冊 

 シュリーマン著『古代への情熱』(村田数之亮訳・岩波文庫)。トロイなど多くの遺跡を発掘した考古学者の自伝。

中日新聞 東京新聞
2016年9月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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