21年にわたって日本人とロシア人の交流の歴史を掘り起こしてきた「来日ロシア人研究会」が100回目の例会を機に、活動を休止した。今月1日に開かれた最後の例会には、50人を超える関係者が出席。研究会の継続を望む声であふれた。
世話人を務める長縄光男・横浜国立大学名誉教授はこの日、「100回という節目に休止することを決めたが、それほど遠くないうちに若い新しい担い手が現れてくれることを期待している」とあいさつした。
同研究会の源流は1977年秋に発足した「〈ロシアと日本〉研究会」。17年のロシア革命以後、難民として日本に移り住んだ多数のロシア人についての記録を残そうと中村喜和・一橋大教授と安井亮平・早稲田大教授(いずれも当時)の呼びかけで始まった。「来日ロシア人研究会」はその趣旨を受け継ぎ、95年から活動を開始。参加者を学者だけでなく市井の人々にも広げて、2カ月に1度の会合を重ねてきた。
この研究会は組織を持たない、規約を持たない、会費を取らない、国籍や経歴も問わないという。参加するのに特段の会員資格がいらないこともあって研究会には毎回40〜50人の人々が集まり、3時間におよぶ研究報告が行われてきた。
そうした報告をまとめたものが「異郷に生きる」(成文社)シリーズだ。休止を前に刊行されたのは6冊目となる『異郷に生きるVI』。この中には「六本木の赤ひげ」として親しまれた故エフゲーニー・アクショーノフ医師も紹介されている。ロシア革命から逃れて18歳で来日、日本で苦学して医師の資格を得た。複数の言語を話し、来日する著名な外国人を診察することも多かった。ソ連、ロシアの国籍を取らず無国籍で通した。冷戦時代、日本とソ連双方の公安当局からスパイの嫌疑をかけられたこともあった。プーチン大統領と会談し、帰国を促されたが、それを断り、北方領土の日本への返還を提案したエピソードなども記載されている。
こうしたさまざまな人的交流に関する研究報告は多岐にわたる。そして研究会には政治に流されないというルールが根っこにある。世話人の長縄氏は「非政治主義を貫き日露の相互理解に徹してきたことが研究会の長寿につながった」と述懐していた。
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