漫才デカに“電卓女”の警察小説&超自然ホラー

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  • 漫才刑事(デカ)
  • 警視庁捜査二課・郷間彩香 ガバナンスの死角
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漫才コンビも登場!百花繚乱、警察小説+α

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 TVドラマは今季も刑事ものの人気が高く、30年の昏睡から目覚めたり、料理の腕がプロ級だったり、偽アイドルグループを結成したり、刑事部屋から一歩も出なかったりと、いろんな刑事が登場しますが、最近の警察小説も百花繚乱。

 田中啓文『漫才刑事(デカ)』の主役は、大阪府警難波署の新米刑事ながら、腰元興業所属の若手漫才コンビ「くるぶよ」のボケ担当。公務員は兼業禁止なので、二つの顔を持つことは相方さえ知らない秘密。ありえない二足のワラジを履き、上方お笑い界で起きた6つの難事件に挑む。腹話術師がテレビ局の楽屋で人形に刺殺された(かに見える)事件、M-1ならぬ「N-マン」グランプリ3回戦で起きた漫才師大量消失事件……。

 設定がとんでもない割にトリックや意外な動機はよく考えられてて、本格ミステリとしても楽しい。他方、話が進むにつれて「くるぶよ」の人気が上昇、内緒で兼業するのがどんどん大変に……。脇役の大食い女性警官がいい味出してます。

 梶永正史『ガバナンスの死角』は、“電卓女”の異名をとる警視庁捜査二課・郷間彩香が活躍するシリーズの第2弾。著者のデビュー作となった第1弾『特命指揮官』は、松下奈緒主演でドラマ化、フジテレビ土曜プレミアム枠で去る10月22日に放送されたばかり。

 前作では畑違いの立てこもり事件を担当した彩香だが、今回は、特殊知能犯罪係主任として大手商社の贈収賄事件に挑む。その端緒が10万円弱のケチな横領事件(個人的な飲み代を会社のカードで支払った容疑)というのがこのシリーズらしい。チームものの警察ミステリとしても、商社の内幕を描く企業小説としてもぐいぐい読ませる。

 もう1冊、最東対地『夜葬』は、(重要な役で刑事が登場するものの)警察小説じゃなくて、日本ホラー小説大賞読者賞受賞の超自然ホラー。葬儀の前に遺体の顔を丸くくり抜いて“どんぶりさん”にするという(架空の)土俗的な風習と、スマホの音声ナビをうまく使った現代的な恐怖とのミスマッチが絶妙。話のネタ度では今年最強です。

新潮社 週刊新潮
2016年11月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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