明文堂書店石川松任店「ポーランドを舞台に、戦火の友情を描いた一冊」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
欧州が戦争に対する緊迫感に包まれる中、外務書記生としてポーランドの日本大使館で働くことになった棚倉慎。ロシア人の植物学者を父に持つ彼は、ポーランドに特別な思い入れがあった。かつてポーランド人のシベリア孤児カミルと友情を築いた過去があった慎は、ポーランドでの生活の中でさらに思い入れが強まっていき、戦争回避のために奔走するが・・・・・・。
戦時下のポーランドを舞台に、複雑な人間関係や人種差別の問題を絡めながら、どう生きるべきか、を強く問いかけてくる一冊だ。一人の青年が悩みながらも行動し、どう生きるべきか、を自分自身で決断していく姿に惹きつけられる。
《友情》という言葉が虚しく響かないほど真摯に《友情》と向かい合っていて、深く心に残る作品である。特に物語の後半、ある登場人物から慎へと届けられた手紙、そして明かされる真実には、強く胸を打たれた。
戦火の友情を描いた近年の傑作として、中脇初枝『世界の果てのこどもたち』や深緑野分『戦場のコックたち』などと併せておすすめの一冊です。