それは、昭和の貧しい時代を生き抜く原動力。85歳の老人が明かす「和食の力」

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それは、昭和の貧しい時代を生き抜く原動力。85歳の老人が明かす「和食の力」

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「食文化史研究家」という肩書きには、あまりなじみがないかもしれません。しかし『ひと月1万円! 体にやさしい 昭和のシンプル食生活』(永山久夫著、CCCメディアハウス)の著者はそう自称し、古代から近代までの食事復元研究を行ってきたのだそうです。つまり本書は、そうした活動を軸として「食の知恵」を公開した書籍だということ。

ちなみに福島県の麴屋の次男として生まれた著者は、現在85歳。本人によればかつては「売れないビンボーマンガ家」で、奥さんに先立たれたこともあり、苦労しながら仕事と子育てを続けてきたのだそうです。そして本書に書かれていることは、自らの若く貧しい時代を支えてもくれたのだとか。

長い人生にはいろいろありますが、私の場合、芽の出ない人生が長過ぎました。そんな暮らしの中で身についたのが、安く手に入る、体にいい物を食べるということでした。豚肉・卵・納豆・高野豆腐・青魚…みんなおいしくいただきました。85歳まで元気にこられたのは、ビンボーから悟った生活の知恵、永山式・昭和の食生活のお陰だと思っています。(「はじめに」より)

そんな「永山流食生活」には、どのような決まりごとがあるのでしょうか? 3章「安い、かんたん、体にいい! 永山流食生活のルール」から、いくつかの要点をピックアップしてみましょう。

腸にいい、和食をベースにした食生活をする

「和食は腸にもいい」といわれる理由は、食材としてよく使われる、

1. 穀物や野菜、海藻などは食物繊維含有量が多い
2. みそや醤油、漬物には腸内環境を整え、免疫力を上げる善玉菌を増やす乳酸菌が多く含まれる
(53ページより)

から。そこで和食を食べて善玉菌を増やし、悪玉菌を減らすような腸内環境にしておくことが、健康長寿のためにはとても効果的なのだと著者はいいます。

わかめがたっぷり入った豆腐のみそ汁や、カブ、人参、なすなどの糠漬け、そして大根、里芋、コンニャクなどの煮物も食べるようにしたいもの。なぜなら、整腸効果を高める食物繊維と乳酸菌などの生菌がたっぷりとれるから。腸を守るために、野菜や海藻をたくさん食べることが大切だというわけです。

ところで著者は和食というと、昭和の食生活を思い出すそうです。

昭和の暮らしは貧しかったけれど、輝いていました。薬もなければ、近くに病院もない。したがって、健康を守る知恵が自然に生まれ、その知恵に守られながら食べた。食生活でいえば、それが腸にいい和食でした。おかげで、老人になっても、死ぬ前日まで畑で働くような強い生命力を持っていた。
それでいて、無性に明るく、よく笑う。
(54ページより)

著者は子どものころ、笑いながら涅槃(ねはん:煩悩のない極楽)に旅立って逝く老人たちをたくさん見てきたそうです。そこで学んだのは、「いい歳のとり方をすると、世を去るときが訪れても、不安などないのだ」ということ。そこで自身も、腸にやさしい和食をしっかり食べ、元気にしぶとく生き抜き、100歳を迎えたら、笑いながら涅槃に向かいたいのだといいます。(53ページより)

主食以外の自分流サプリメントを、毎日必ず食べる

食事はご飯やめん類、パンなどの主食と、副菜のおかずから成り立っています。そして健康の基本は、毎日しっかり主食とおかずを食べること。これに尽きるものの、健康で暮らすため、この主食以外に、さらに「自分流のサプリメント」を考案してほしいと著者は記しています。なぜなら多くの場合、どうしても自分が好きなものばかり食べがちで、理想的な食事をしている人は少ないから。

そこで偏った食事、貧しい食事を補うためにも、毎日の食事以外に自分流のサプリメントを考案しようという考え方。それが優れていれば、効果な食品など食べなくても十分に健康で、医者知らずでニコニコ過ごせるそうです。でも、「自分流のサプリメント」とはどのようなものなのでしょうか?

特に効果があった”サプリメント食”として著者が経験からすすめているのは、生姜とニンニク。この2つが、いまも著者を支えているというのです。

万能のサプリメントといっていいのが、おもに香辛料や薬味として用いられる生姜。辛味の主成分であるジンゲロールやショウガオールには、強い殺菌作用や内臓機能の向上、食欲の増進、発汗作用や血行を促進するなどの働きがあるのだそうです。いちばん知られている効用は発汗作用。体がポカポカしてきて、冬でも汗が出てきますが、そこがポイント。事実、生姜は漢方薬の世界でも重視されている薬草。

そこで著者も、毎日飲む「甘茶」に入れるだけでなく、あらゆる料理に加えているといいます。生姜は永山家になくてはならない健康サプリメントで、いまでは料理に生姜が入っていないと物足りないとすらいうのです。冬の寒さによる手足の冷え、夏バテからくる食欲低下などにも効果てきめん。

そしてニンニクは著者いわく「『夢の、生涯現役パワー』を与えてくれる、ビンボー人必食のサプリメント」。古代からその強力なパワーは知られており、ヨーロッパでも「貧乏人の万能薬」と呼ばれたのだとか。でもビンボー人だろうと金持ちだろうと、ニンニクは利用する人すべてに、そのすばらしい福音を与えてくれるといいます。

ニンニクの強い辛さと臭気のもとはアリシンで、強力な殺菌力に加え、気力の回復に役立つビタミンB1の作用を5倍にも、6倍にも高める力があるそうです。

かんたんに食べるために著者が勧めているのは、ニンニクの醤油漬け。薄くスライスしたニンニクを数時間醤油に漬けておくだけでできあがり。そのまま食べてもいいし、野菜炒めやチャーハン、オムレツ、あるいは細かく切ってみそ汁、ラーメン、うどんなど、なににでも入れることが可能。どんな料理にも利用できるわけです。

大事なことは、安易に高価な市販のサプリメントを買うのではなく、自分なりに探し、工夫して考案し、毎日必ず食べることです。そして重要なのは、1.食べる時間、2.食べる量、を決めて守ること。これをせずに、気まぐれに食べても効果は出ません。(58ページより)

もちろん生姜とニンニクだけではなく、他にも黒ごま、黒砂糖、クコの美、松の実、ナッツ類、オリーブオイル、ヨーグルト、梅干し、豆乳、甘酒、きな粉、塩麹、フルーツ類など、「自分流のサプリメント」は探せばいくらでも見つかるもの。古来から、滋養強壮のサプリメントとして愛されてきた食材は多数。財布と相談しながらそれらを組み合わせ、体に取り入れ続けるということです。(55ページより)

健康で長生きしたかったら、腹7分目の少食を守るべし

健康の基本が「腹八分目」だということは、いまさら強調するまでもない話。ところが巷には、「もっと食べたい」本能を刺激する食品があふれています。しかし誘惑に負け、あれもこれもと食べていたら、身を滅ぼしてしまう。著者はそう警鐘を鳴らします。

逆に少食の場合、最初は物足りなかったとしても、慣れてくれば体が軽くなり、体調がいいことに気づくはず。

自動車やエスカレーターなどが浸透した現代は、カロリーの消費量が昔とくらべて激減しました。にもかかわらず、昔より脂っこい高カロリーの料理をたっぷり食べているのが現状。特にパスタ、麺類、菓子パン、ご飯など炭水化物系による満腹は、胃にもよくありません。血糖値が上がりっぱなしになり、糖尿病になるリスクが高まるわけです。

そんななか、最近の研究では「腹八分目」よりもさらに少ない「腹七分目」が注目されているのだそうです。その状態を守ると、体が飢餓状態にあると勝手に判断し、人間の寿命を延ばすといわれている長寿遺伝子「サーチュイン遺伝子」の働きが高まるというのです。

加えて著者はここで、興味深いエピソードも紹介しています。米ウィスコンシン国立霊長類研究センターの実験で、アカゲザルを「カロリー制限しない組」と「30パーセントのカロリー制限をした組」に分け、病気や死亡のリスクを調べたのだそうです。その結果、制限しなかった組は、制限した組より病気リスクが2.9倍、脂肪リスクが3倍多かったのだとか。つまりはカロリー制限をしたほうが、健康で長生きすることが科学的にわかっているということ。

健康に年をとるためには、「腹七分目」の少食が効果的だといえるようです。いつまでも元気で長生きしている人は、すべてについて「ほどほど」ということを知っている人。(65ページより)

それは、食生活はもちろんですが、生きていくうえでのすべてのことにもいえそうです。(64ページより)

「はじめに」にある「本書で紹介した食材は、健康成分が豊富ですから、免疫力も強化されるでしょう。しっかり料理して栄養をとり、厳しい時代を逞しく生き抜きましょう」というメッセージには、著者の人柄が最良のかたちで表れているように思います。そのせいか、レシピが中心でありながら、読んでいると不思議と勇気づけられもします。

それは、「貧しくとも、常に前向きで明るく、ベストを尽くす」という著者の生き方と食生活に、強い説得力があるからこそ。ぜひとも、手にとってみていただきたい1冊です。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2016年12月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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