『遺された家―家族の記憶』
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【写真集】セピアの思い出を呼び覚ます 『遺された家 家族の記憶』太田順一
[レビュアー] 産経新聞社
空き家…といっても〈かつての住人が使っていた家具や生活用品がまだそのまま残っていて、肉親など関係者が時折訪れては維持管理をしている、そんな家〉14軒139枚の写真が収められている。
ブラウン管のテレビ、鏡台、山口百恵のポスター、軍用機の模型コレクション、引き出しの中にしまわれている料理のレシピ、物故者の写真…。
〈空き家は「遺品」〉という太田さんの写真には、そこで暮らしていた家族のぬくもり、昭和という時代の匂いが濃厚にたちこめている。
昭和時代、高度経済成長と科学技術のめざましい発達とがあいまって、われわれの心と社会は急激な変化に見舞われた。だが、個人の家の中は、存外、戦前からの空気を引きずっているものだ。
この写真集を見る者は、そう遠くはない過去だが、すっかりセピアに変色してしまった自身の家族の記憶を呼び覚まされるに違いない。両親のいなくなった実家をかろうじて維持している筆者もそのひとりである。加えて、少子高齢化とそれに伴う空き家の増加という日本が抱える今日的な問題が鮮明に見えてくる。(海風社・3000円+税)