60年代に刊行、絶大な影響を与えた“異色作家短篇集”が文庫に

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影響絶大だったあの≪異色作家短篇集≫文庫に!

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 1960年〜65年に、瀟洒な函入りのB6判で刊行された早川書房《異色作家短篇集》全18冊は、ジャンルの境界を越えて様々な翻訳短篇(時に“奇妙な味”と呼ばれた)を紹介し、日本の短篇小説にも絶大な影響を与えた。その後、70年代と00年代に巻数と一部内容を変えた新装版が出るなど根強い人気を保っているが、今年10月、そのうち2冊が初めて文庫化された。

 シャーリイ・ジャクスンくじ』は、著者の生前に唯一刊行された短篇集の抄訳(25篇から3篇を割愛)。ジェームズ・ハリスなる人物(またはそれらしき男)が半数近くの短篇に登場し、メフィストフェレス的な役割を果たす。自分の住まいをこよなく愛し、快適なひとり暮らしを楽しんでいる男が、ハリス氏のおかげで悲惨な状況に追い込まれる「おふくろの味」など、軽いタッチのブラックコメディもすばらしいが、ダントツに有名なのは表題作。村人たちが総出でくじを引くだけの、20ページにも満たない小品ながら、切れ味抜群。この1篇のためだけに本書を買っても損はない。

 もう1冊、現代ではおよそありえない訳題が目を引く『さあ、気ちがいになりなさい』は、日本オリジナルのフレドリック・ブラウン傑作選。「みどりの星へ」「電獣ヴァヴェリ」「ノック」「ユーディの原理」「シリウス・ゼロ」など、主に40年代に書かれたSF系の代表作を網羅する。クレジット上は星新一訳で、星新一の訳者あとがきもつくが、実際に(星新一風に)訳したのは早川書房SFマガジン編集部(後に編集長)の森優(南山宏)だったらしい。

 偶然にも、この2冊とほぼ同時に創元SF文庫から出たのが、レイ・ブラッドベリ万華鏡』。かつてサンリオSF文庫から川本三郎訳で出ていた自選傑作集が、中村融の新訳で、40年ぶりに甦った。『火星年代記』の3篇や「草原」「刺青の男」「霧笛」など、SFの名作はもちろん、自伝的少年小説『たんぽぽのお酒』の4章分を含め、ホラー、ファンタジー、ミステリ、純文学まで、幅広く収録する。ブラッドベリの様々な顔が一望できる1冊。

新潮社 週刊新潮
2016年12月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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