<東北の本棚>災害生き抜く知恵探る

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<東北の本棚>災害生き抜く知恵探る

[レビュアー] 河北新報

 岩手日報が2016年1~6月に掲載した連載企画「てんでんこ 未来へ」など、同社の東日本大震災に関する5年間の報道をまとめた。津波の時は他人に構わずめいめい逃げろという三陸地方の言い伝え「津波てんでんこ」の意味を掘り下げ、震災後にその教えが地元や国内外でどう受け止められ、広がっているのか追った。犠牲者の行動分析や、各界の著名人が寄せた鎮魂のメッセージも掲載。一連の報道は同年の新聞協会賞(編集部門・企画部門)を受賞した。「震災を絶対に風化させない」という意気込みが伝わってくる、中身の濃い一冊だ。
 連載企画は16年元日から全7部計42回にわたり掲載された。迅速な避難に成功した岩手県内の学校や地域、混乱の中で犠牲者を出した事例、「てんでんこ」の言葉を生んだ明治、昭和の三陸大津波の教訓を丹念に取材。インドネシアなど海外の大津波被災地にも足を運び、生き残るための知恵の在り方を探る。
 自分の身は自分で守るという教えは、他人を見捨てて逃げる冷たい行為とも受け取られかねない。目の前に災害弱者がいたら、あるいは家族と離れ離れだったら、構わず逃げられるだろうか。本書はそうした葛藤を踏まえつつ、「てんでんこ」とは「周りの人にも避難を呼び掛けながら逃げる」「事前に避難方法を相談しておく」など、重層的な意味を持ち合わせた「共助」へと深化した言葉だと解き明かす。
 犠牲者の行動記録は、首都大学東京の渡辺英徳准教授(情報学・芸術工学・デザイン)の研究室と共同で、地震発生から大津波襲来までに犠牲者がどう行動したかを地図上で再現した。遺族の協力が得られた1326人の行動を、陸前高田市、釜石市など地域ごとに分析。半数超の54.9%が自宅にとどまり、亡くなっていたことを浮き彫りにした。行動記録は動画でインターネット上で公開している。
 岩手日報社019(653)4111=1620円。

河北新報
2016年12月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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