『四人の交差点』
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【聞きたい。】トンミ・キンヌネンさん 『四人の交差点』古市真由美訳
[文] 産経新聞社
■苦難と孤独…ある家族の100年
個人の挿話と国の歴史が重ねられ、時の厚みが立ち上がる。本国フィンランドでベストセラーとなった重厚なデビュー小説だ。
「創作講座で短編を書いていたんです。すると無関係だった人物たちが、ひもとひもがつながるようにして結ばれていった。すべてが偶発的だったのです」
19世紀末からのフィンランドを生きた家族の100年が描かれる。助産師として自活し女手ひとつで娘を育てたマリア、その娘で写真技師となったラハヤ、ラハヤの息子の妻となり姑(しゅうとめ)との距離感に苦心するカーリナ。3世代の女性と、ラハヤの心優しき夫であるオンニ。4人の視点から、第二次大戦などに翻弄された苦難の歩みが紡がれていき、それぞれの道が交わる結末、家族が胸にしまいこんできた謎が見えてくる。
家を建てたり増築したりする描写が随所に出るのが印象深い。「家族は幸せな集合体と思われがちだが必ずしもそうではない」。安息のために築く家は同時に苦悩も連れてくる。家族のいさかいは絶えず一人一人の孤独は深まる。でも登場人物は口を引き結んで耐える。北欧の厳冬に静かに立ち向かうかのように。
「楽しく幸せに過ごしていて、ふいに事故に遭う。すると人は誰かのせいにしたくなりますよね。でも人生のあらゆるところに悲しみはあって、いい時も悪い時もある。それを理解し、すべてを人生として受け入れるべきだと思うのです」
国語と文学を教える教師で、時折日本の俳句も教材に使う。初来日で東京を探訪し「伝統的な要素と近代的なものが同居している。フィンランドに似た感じもある」と喜ぶ。創作の妙味を聞くと、少しの間を置いて柔和な笑みを見せた。
「好きでもなかった登場人物の人生が読んだ後では少しは理解できている。そんな気付きを得てもらえたらハッピーかもしれない」(新潮社・2200円+税)
海老沢類
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【プロフィル】トンミ・キンヌネン
Tommi Kinnunen 1973年、フィンランド北東部のクーサモ生まれ。教師を務める傍ら舞台の脚本も手掛ける。2014年発表の本作は複数の賞を受け、16カ国での翻訳出版が決まっている。