メルセデス・ベンツを顧客第一主義に変えた「カスタマージャーニー」とは――本当に強いブランドは自ら変わり続けている

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顧客とのタッチポイントを洗い出せ!

経営陣たちはプロジェクトの目標を、「顧客が抱える問題を迅速に解決し、お客様に喜びを感じていただく(Driven to Delight)」、いわば“最高の顧客体験を届けること”に定めました。しかもそれは、高級自動車部門のなかでトップに立つことではなく、リッツ・カールトンやスターバックスなど、すぐれた顧客体験を実現している企業に肩を並べようとする野心的なものだったのです。

この目標を達成するための主要な取り組みのひとつに、「顧客とのタッチポイント(接点)を検証し、改善する」というものがありました。タッチポイントと一言で言ってもそれは無数にあるため、検証するだけでも大変なプロセスを要します。

それを可能にしたのが、カスタマージャーニーのマッピングでした。最終的には以下の形になったマップがどのようにつくられたのか、その過程を見てみましょう。


顧客体験を示す車輪(95ページより一部加工のうえ引用)(C)2012 Mercedes-Benz USA,LLC. Reprinted with its permission. All rights reserved.

1.チームづくり

経営陣たちはまず、プロジェクトを進めるためのチーム編成から始めました。彼らは人選にあたり、カスタマージャーニーの設計についての知識やスキルは問題にしませんでした。必要なときには専門家に助言を受けることができるからです。重視されたのは、多様性や創造性、忍耐力、そして若さでした。

「目的のために人を選ぶということを意識した。たとえば、チームの責任者には、チームの多様化と積極的な活動を可能にするために、若い『Y世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた世代。ミレニアルズとも)』の社員を選んだ。(中略)創造性に富み、未知のものにも躊躇せず、忍耐力と逆境を乗り越える力を有する人材を求めたのだ」

(顧客体験チームのゼネラルマネジャー、ハリー・ハイネカンプの証言 87ページより)

2.マッピング

カスタマージャーニーのマッピングのために、メンバーたちは、個別のケースや各部署の視点にとどまらない、総合的な視点を持つ必要がありました。そのために彼らは、顧客とともに販売店を訪れ、車を買おうと考えている顧客の行動や感情の動きを、実際に体験することから始めました。そして、その経験や他の調査によって得られた情報から、すべてのタッチポイントを洗い出し、マッピングしていきました。

これは入念に考えられたプロセスに従って行われた。まず、マーケティング、販売、アフターサービス、物流などさまざまな部門のリーダーたちの力を借りて、顧客の考えやニーズをリストにして紙に貼った。顧客のニーズを明らかにしたあとは、そのニーズを満たすために顧客がどのような体験をするかがリスト化された。

(89~90ページ)

マッピングによって、顧客とのタッチポイントを数多く明らかにすることができました。たとえば顧客は、広告や雑誌記事、イベントなどを通してブランドを知ることがあります。家族や友人からの口コミがきっかけで、メーカーのウェブサイトを訪れたりもします。そのうえで地域の販売店を探し、訪れてみる顧客もいます。

チームは、それぞれのタッチポイントで顧客が何を考え、どう感じ、何を優先するかを掘り下げていきました。

日本実業出版社
2017年1月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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