ビルマ1946 独立前夜の物語 テインペーミン 著

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ビルマ1946 独立前夜の物語 テインペーミン 著

[レビュアー] 根本敬(上智大教授)

◆左翼統一の夢と現実

 政治が人々の希望であった時代、文学もまた政治を正面から扱った。ビルマ(ミャンマー)の独立前夜一九四六年は、まさにそのような「とき」だった。

 作者はビルマ共産党の活動に深くかかわった人物。反英独立闘争で共闘しながら、様々な事情から対立の様相を深めていく当時の社会党と共産党。この二大政党を何とかひとつにして、左翼勢力の統一を願ってやまなかった。

 物語はデルタ地帯の一地方都市を舞台に、社会党の活動家男性と共産党員の女性教師との恋愛を軸にして展開する。政治小説でも恋愛小説でもない。独立前夜のリアリズム文学である。抗日闘争も間接的に描かれる。

 独立運動のエリートたちの視点から見た公的な語りとは異なり、農民や教師、茶店の経営者ら、生活者の視点から見た「もうひとつの」独立闘争の語りが小説を貫く。リアリズムだけにハッピーエンドでは終わらない。地主層に対抗すべく社共両党が協力して貧しい小作農らによる水田耕作闘争を実施したとき、主人公の女性教師は感極まり、左翼統一への「道が開けた」と叫ぶ。しかし、その後の現実は彼らの希望を打ち砕いていく。

 そしてビルマは今もこの時代の重いくびきから自由ではない。作者の作品分析をライフワークにしてきた訳者の情熱と力量が輝く、価値ある一冊である。

 (南田みどり訳、段々社発行・星雲社発売・2376円)

<Thein Pe Myint> 1914~78年。国会議員も務めたミャンマーの作家。

◆もう1冊 

 ウマル・カヤム著『サストロダルソノ家の人々』(後藤乾一ほか訳・段々社)。インドネシアのジャワ人家族の物語。

中日新聞 東京新聞
2017年2月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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