『言葉はこうして生き残った』
書籍情報:openBD
【聞きたい。】河野通和さん 『言葉はこうして生き残った』
■書くという行為に分け入る
平成22年に新潮社の季刊誌「考える人」の編集長に就任以降、メールマガジンで毎週発信し続けてきた300本を超えるコラムの中から37本を選び、7つのテーマに振り分けて編んだ一冊である。書き手たちが身をよじりながら吐き出した言葉の森に分け入って彷徨(さまよ)いながら、誠実に考えたことを、次世代の人々に伝えようとする。
忙しい編集業務の合間を縫ってこつこつと書き続けてきた。「言葉そのものと言葉に関わる仕事の魅力を若い人に伝えられるかもしれないという思いでしょうか」と河野さん。
たとえば、1956年のハンガリー動乱でスイスに脱出し、母語ではなく新たに学んだフランス語で作品を発表したアゴタ・クリストフの自伝的物語『盲目』を紹介した「『言葉の受難者』の終着駅」。彼女の処女作『悪童日記』にも触れながら、コラムをこう閉じる。《二十世紀という時代を象徴する“難民作家”の長い旅--「たまたま、運命により、成り行きにより」、フランス語で書くことを自らに課した「ひとりの文盲者の挑戦」が、いま静かに幕を閉じました》
猛烈に彼女の作品を読みたくなってしまう。
「現在の世界、言葉があまりにも簡単に扱われていませんか。表層を滑っていく言葉だけが言葉だと思われている。でも、言葉ってそれだけではありません。熟慮の末に生まれた言葉、苦悩の中から出てきた言葉…。さまざまな背景から言葉は生まれています。本書によって、そんな言葉のあることにも気付いてもらいたい」と河野さん。その語り口は朴訥(ぼくとつ)で、ひと言ひと言を吟味しながら発しているかのようだ。
インタビュー終了間際、「お伝えしなければならないことがあります」と、河野さんは申し訳なさそうに切り出した。
「『考える人』は次号が最後になります」(ミシマ社・2400円+税)
桑原聡
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【プロフィル】河野通和
こうの・みちかず 昭和28年、岡山市生まれ。東京大学文学部卒。中央公論社(現・中央公論新社)で「婦人公論」「中央公論」の編集長を務め、平成22年から新潮社の「考える人」の編集長。