海上自衛隊はどうやってアジア太平洋の安全を確保するのか?

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2014(平成26)年から、中国は南沙諸島で大規模な埋め立てを開始し、プレゼンス(存在感)を増大させています。一方で、2016年1月、オバマ前大統領は「世界の警察官を降りる」と表明し、トランプ大統領は「強いアメリカ」を叫びながらも国内回帰を志向しています。このような東アジアにおける米中の力関係が大きく変わりそうな現状をふまえ、「海とは何か?」という基本から、海軍の存在意義、海上自衛隊がどんな組織を目指しているのかなどを、軍事評論家・毒島刀也氏に語っていただきました。

海運コストの低さは海上交通路の安全性によるもの

 日本は島国で、たびたび海洋国家にたとえられ、輸出入のほぼすべてを海上交通路(シーレーン)に頼っているのは御承知でしょう。また、国内輸送の基幹部分を海上交通路に頼っているのも、産業構造を少しでも習った方なら覚えていると思います。

 日本に住む1億5000万弱(日本在住の外国人を含む数字)の人間が先進国水準の生活を営むには、日本国内で産出されるモノだけはまったく足りません。しかし、当たり前に電気を使い、通販や宅配便のサービスを受け、輸入食品や雑貨に囲まれた生活をしている我々には、その窓口である港を目の前にしても、それがどれだけ重大なことなのかを忘れがちです。

 港さえあれば、もしくは荷揚げ手段さえあれば、地球表面の7割を占め、かつすべてがつながっている海を経て、世界中どこにでもモノを運べるのが、船による輸送の強みです。さらに、道路や鉄道のように敷設のための土地買収や補修・管理がいらないのもメリットであり、現在に至るも大量・大型の物資を低コストで運べる唯一の手段でもあります。

 しかし、海運の低コストは、「誰のものでもない公共財としての海」というコンセンサス(合意)があり、その経路上の国家の安定があって初めて成り立ちます。それは中東における何度かの紛争やソマリア沖で海賊がのさばることで、その海域を経路とする物品が値上がりしたことからもわかるでしょう。

広大な海域の海上交通路を護る

 この海上交通路上の安全を確保するのが、近代海軍の役割です。世界中の海上交通路の安全を確保し(=支配し)てきたのはかつてのイギリスであり、現在のアメリカです。このためにイギリスは非常に強大な海軍を持っていましたし、アメリカは現在も持っています。日本もこの恩恵にあずかる一員であり、海上自衛隊(以下、海自)は日本の国土を守ると同時に、アメリカなどとともに日本と世界をつなげる海上交通路を守る組織です。

 かつて対潜・掃海装備の整備に奔走する海自を「アメリカ海軍第7艦隊対潜部隊」と揶揄する声もありました。しかしそれは、当時の日本で社会的コンセンサスを得た上で整備するにはその道しかありませんでしたし、独立国としての必要最低限のニーズと身の丈の経済両方に見合ったものとして評価してもいいでしょう。後知恵ですが、冷戦が終結したあとも大きな変革を必要としなかったのは、「戦力整備の方針に先見の明があったから」とも言えます。

 日本が本格的な海上交通路防衛に乗り出したのは、1981年8月に「シーレーン1000海里防衛構想」を打ち出してからです。領海の12海里(22km)をはるかに超え、フィリピン・台湾間に横たわるバシー海峡までを日本が防衛することを意味し、日本を遠く離れたところで敵の潜水艦や航空機の脅威をはねのけ、日本の輸送船団を本土まで護り切ることを想定しています。

 この条件を満たすために、海自の艦艇は順次大型化、高性能化し、今ではイージス艦、ヘリコプター空母を有するようになりました。ソ連が消えて、中国が台頭してきましたが、予想される戦闘の正面が、オホーツク海、北海道から東シナ海、南西諸島に移っただけで、海自が果たすべき役割はいささかも変わっていません。

 ただ近年は、弾道ミサイル防衛、国際平和活動、低強度紛争・グレーゾーン事態への対処、災害出動など、海自の活動も多様化し、世界第2位の海軍力をもってしても「駒不足」であり、2010年12月と2013年12月に決まった防衛大綱で、それぞれ潜水艦を6隻増の22隻、護衛艦を7隻増の54隻にすることにしています。

薄れゆく米軍のプレゼンス(存在感)に対処する

 さて、防衛は常に周辺国と相対的に決まるものです。同盟関係でない限り、どんなに友好的であっても、その国の指導部が入れ替わったら、敵対的に変わる可能性をはらんでいますから、常に相手の能力に対して備えなくてはなりません。

 その意味では日本の仮想敵は中国、ロシア、北朝鮮のみならず、韓国、台湾も含まれます。そしてシーレーン末端までの防衛を言い出すと、経路上にある国家すべても考慮しなくてはなりませんから、きりがありません。そのような面倒なことは世界の海を支配するアメリカに任せ、日本はひたすら自国とその周辺の狭い範囲を考えればよかった面がありますし、自衛隊もその線に沿って整備されてきました。

 しかし、近年の目覚ましい経済発展を背景に、中国軍の防衛費は直近10年で3.4倍、過去28年では44倍に膨れ、その伸びの多くは海空軍への近代装備の整備に費やされています。そして明らかに無理筋な論理で、東シナ海、南シナ海への伸長を図っています。

 これに加えて、アメリカでは2016年1月にオバマ前大統領が「世界の警察官を降りる」ことを表明し、トランプ大統領は強いアメリカを叫びながらも国内回帰を志向しています。この流れは東アジア(もしくは西太平洋)地域における米中のプレゼンスが逆転しつつあることを意味します。

 こうなると日本は東シナ海、南シナ海のシーレーンの安全を自前で確保すると同時に、この地域で唯一、中国に対抗可能な国として、否応なしに自由主義陣営の盟主として表に立たざるを得なくなります。海自はこの日本のプレゼンスを裏付ける力として、今後ますます重要になります。

 その文脈で考えれば、これまでの定数を大きく上回るヘリコプターを搭載する「いずも型」の就役は、従来のシーレーン防衛一本槍からの脱却を意味する画期的な出来事の1つであり、海自、ひいては日本の将来像を占う存在となります。今はちょうど改編の緒についたところでその姿は曖昧模糊としていますが、今後、イージス艦2隻、3000t型将来護衛艦(30DEX)22隻などが就役することで、新しい海自像が浮かび上がってくるでしょう。

 昨今の日本周辺の情勢は非常に不透明ですが、これまでどおり、砲火の洗礼を浴びることなく、抑止力で済むことを願うばかりです。

SBCrOnline
2017年3月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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