愛する人を失った悲しみは「復興」できない 折り合いをつけるための「亡き人との再会」

テレビ・ラジオで取り上げられた本

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 久米宏さん(72)が司会を務めるTBSラジオの番組「久米宏 ラジオなんですけど」3月11日の放送にノンフィクション作家の奥野修司さんが出演した。東日本大震災の被災者が経験した「霊体験」を題材に、奥野さんと久米さんは6年を経てもなお難しい被災者の「心の復興」について話し合った。

■一流のノンフィクション作家が「霊体験」を取材

 奥野さんは『ねじれた絆―赤ちゃん取り違え事件の十七年』など緻密な取材で知られるノンフィクション作家。大宅壮一ノンフィクション賞なども受賞している。奥野さんが2012年から取材をすすめていたのは東日本大震災で最愛の人をなくした遺族たち。彼らに訪れた不思議な「亡き人との再会」体験を取材してまわったのだ。奥野さんは聴きとった体験談をまとめ、2月に『魂でもいいから、そばにいて 3・11後の霊体験を聞く』(新潮社)として出版した。

■動きだしたおもちゃ

 取材をはじめて2年間は奥野さんに話してくれる人はいなかったという。最初に奥野さんに話をしてくれたのは、石巻のお坊さんから紹介を受けた遠藤さんだった。

 遠藤さんは震災で3歳の息子をなくしていた。震災から2年が過ぎ息子の仏壇の前にいたところ、子どもが大事にしていた電動式の車のおもちゃが急に動きだしたというのだ。スイッチの付いた電動式の車が勝手に動くことはありえない。その後息子の名前を呼び、「もう一度動かして」と願ったところ、再度おもちゃは動いた。この体験は遠藤さんだけではなく、親族も見ている前でも起こったという。

 また遠藤さんには震災後に生まれた娘がおり、その子の手を誰かが引っ張って歩いていると感じることもあったという。それは亡くなった息子さんが妹と遊んでくれているのではないか、と遠藤さんは理解している。

■取材を続けるわけ

 当初、取材は困難を極めた。奥野さんは東京から来たジャーナリストにいきなりそんなことを話す人はいない、と自分が同じ立場でもそう思うと理解をあらわす。しかし何度も東北に通ううちに知り合いもでき、その人たちからの紹介で話を聞かせてくれる人が増えてきたという。

 話すことを渋る遺族が奥野さんに打ち明けたのは、このような霊体験を語っても信じてもらえないかもしれない、馬鹿にされるかもしれないという思いがあったからだという。

 番組で奥野さんは、取材を続けた理由も語った。「かたちの無いものは見ようとしないと見えない。今回のような子どもを失った悲しみは、本人が語らない限り無かったことになってしまう。誰かが悲しみに気付いて寄りそう。そうしないと永遠に消えてしまう。本に書いた霊体験も聴こうとしない限り消えてしまうこと」だと話し、被災者の気持ちに寄りそうことの大切さを説いた。

■心の復興はない、折り合いをつけるだけ

 また奥野さんは「心の復興とよくいうが、それは家族を失っていない人ができること。失ってしまった人はどこかで折り合いをつけるだけ。その折り合いをつけるきっかけを誰かが提供してあげればいいんだけど、まったくできていない」と「霊体験」は悲しみと折り合いをつけるための体験だと解説した。

 奥野さんは同書の中で、この先100年経てば関係者はいなくなり、被害を覚えている人は誰もいなくなる、と述べる。そして亡くなった人の数字しか残らず、大震災は年表のなかの一行になってしまうと指摘する。それゆえに奥野さんのもとには、被災と霊体験がこうして本になり、愛する子どもたちとの記憶がかたちとなったことを喜ぶ遺族の声も届いている。

 久米さんは「夢や霊を見るというのは、なんとか自分が納得したいということなんですかね」と同書の感想を述べ、「堤防とか土盛りはできるけど、人間の心はねえ、そう簡単には」と心を癒すことの難しさをしみじみと語った。

久米宏 ラジオなんですけど」はTBSラジオにて毎週土曜日13時から放送中。またradikoのタイムフリー機能を使い、過去1週間以内の放送を聴取することもできる。聴取はradikoのスマートフォンアプリや下記のURLから。
http://radiko.jp/#!/ts/TBS/20170311140000

BookBang編集部

Book Bang編集部
2017年3月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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