【手帖】ビジュアル「国字」字典

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 ♪六甲おろしにさっそうと…でタイガースファンにはおなじみの「おろし」は、冬に標高の高い場所から吹き下ろす風のこと。国字では「颪」と記す。下りてくる風という組み合わせは、わかりやすい。風系統では「凪(なぎ)」とか「凩(こがらし)」も国字。これまたダジャレ並みにわかりやすい。

 和製漢字ともいわれる国字を集めた『ビジュアル「国字」字典』(世界文化社・3700円+税)は、日本人がつくり出した言葉の魅力を写真とともに楽しめる一冊だ。中国から伝わってきた漢字を使っているうちに、従来持っていた意味が変わったり、日本独自の意味を与えたりするようになった。さらに漢字にならってオリジナルを作るようになった。そんな国字がずらりと並んでいる。

 初めて見るものもたくさんあるが、じつに楽しい。百人一首に出てくる「あさぼらけ」。じつは1字で書ける。手持ちのパソコンでは活字が出てこないが「日」ヘンに「來」のツクリ。ほのかに明るくなる頃だから「日が来る」。そのものズバリ。これぞダジャレ…いや明解な表意文字である。

 〈国字には、日本の自然や産物が巧みに織り込まれています〉。国語学者の笹原宏之さんが序文を寄せている。印象深いのは「躾(しつけ)」という字にまつわる話だ。室町時代に現れたというこの国字は、日本人の美意識や価値観をよく示している。中国には「しつけ」に相当する漢字はないらしく、江戸時代には「礼」が近いと言われたりもしたそうだ。「仕付け」とも書けるが、身を美しくするニュアンスはない。また、ただの「教育」では雰囲気は伝わらない。

 本文によると〈人間社会を生きるのに必要な規範や礼儀作法を教え込むこと。また、そうして身についた節度ある立ち居振る舞いをいう〉。それが美しいとされる社会で共有された文字なのだ。

 なんと、日本から中国に渡った国字もあるという。「鱈(たら)」は、室町時代に身の白さから生み出されたが、近世に中国が“逆輸入”して、いまでは「タラ」や「たら」と仮名書きしている日本以上に使われているとか。

 学校で習う「常用漢字表」には2136字が載っているが、そのうちの国字は「込、搾、腺、峠、栃、匂、畑、働、塀、枠」の10字だけだという。もっとあってもいいんじゃないかな。(存)

産経新聞
2017年3月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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