“二十面相”はやっぱり永遠に不滅なのだ

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“二十面相”はやっぱり永遠に不滅なのだ

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 没後50年余が経過して、江戸川乱歩の作品が昨年から著作権フリーとなり、このところ乱歩の出版ラッシュ。若い読者向けのキャラ小説が中心の新潮文庫nexも、『怪人二十面相』『少年探偵団』『妖怪博士』と、少年探偵団ものの最初の3冊を出している(カバー装画は六七質)。

 僕自身、小学生時代はポプラ社の《少年探偵 江戸川乱歩全集》に(ホームズ全集、ルパン全集ともども)読みふけったクチですが、スマホを持ち歩く今の子どもに、はたして怪人二十面相が通じるのか?

 ……と思っていたところ、うちの娘(小学6年生)がいつの間にか手にとり、3冊とも読破。4巻目以降は学校の図書室にあるポプラ社版(今のは昔より大判)で読み進み、卒業までに全26巻読破を目指しているらしい。ふだんは東川篤哉や東野圭吾を読んでいるのに、「ですます」調の少年ものに違和感はないのか不思議だが、「“かどわかす”って何?」とか、(nex版は原作そのままなので)“傴僂”が読めないとか、多少のひっかかりはありつつも、怪人の活躍を大いに楽しんでいる模様。けだし、二十面相と少年探偵団は永遠に不滅なのである。

 その二十面相と同じころアメリカで生まれたヒーローにオマージュを捧げるのが、川又千秋の新作『火星の白蛇伝説』。原典はC・L・ムーアの懐かしのスペースオペラ《ノースウェスト・スミス》シリーズ。それを中国の唐代伝奇とマッシュアップした結果、雷杖(レイジャン)片手に宇宙を放浪する冒険者・素密素(スミス)(字(あざな)は乾(ガン))が誕生した。松本零士の官能的なイラストで知られるエイリアン美女シャンブロウは蛇不老(シャブロウ)として妖艶に甦り、年配読者の郷愁を誘う。

 C・L・ムーアの夫のヘンリー・カットナーもSF作家で、しばしば夫婦で合作していた。その代表作を表題作とする『ボロゴーヴはミムジイ』は、名翻訳者・伊藤典夫が「SFマガジン」で訳してきた160編から選び抜いた傑作7編を収めるアンソロジー(高橋良平編)。英米SF黄金時代(1940年代〜50年代)の精華がここにある。

新潮社 週刊新潮
2017年3月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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