明文堂書店石川松任店「医療格差が拡大したら……、戦慄の近未来」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
もしもあなたが強い感受性の持ち主であるなら、気を付けたほうがいい。この小説はやわな神経を粉々に砕く劇薬である。だが同時に本書は覚悟を持って読み進めたものにしか味わえない読後感を持っている。気軽には薦められないが、それでも多くの人に読まれて欲しい作品である。
医療格差の拡大により、医療が《勝ち組》と《負け組》に二極化されるようになった近未来の日本が舞台になっている。そんな社会で《勝ち組医師》を狙った殺人事件が立て続けに起こり、メディアからその一連の事件は《勝ち組医師テロ》と呼ばれていた。そんな状況の中、医師の過半数が加入する団体の総裁であり、過激な医療改革を掲げ、世間から注目を集めていた狩野万佐斗に《勝ち組医師テロ》に関連すると思われる脅迫状が届く。かつて狩野と大学の同級生だった医事評論家の浜川浩は、彼から同じく大学の同級生であった塙光志郎が事件に関わっている可能性があることを聞かされる。塙の消息を調べる浜川だったが……。
本書で描かれる近未来はリアルだ。絵空事にできない恐怖を持った作品である。もし本書を不快に感じたとしたら、それは現実が不快なのかもしれない。虚構と割り切ってはいけない力強さがある。そして物語は、この社会に蔓延る問題に対する綺麗な解決を、読者に示さないまま幕を閉じる(もちろん事件の謎は解かれるが……)。読者は迫り来る現実に怯えながら、本を閉じなければならない。読後、胃の辺りに感じる不快を吐き出そうと、溜め息をひとつ吐く。衝撃の問題作だ。