【話題の本】『山怪 弐 山人が語る不思議な話』田中康弘著
[レビュアー] 産経新聞社
■狐か狸の仕業?怪しい「何か」
人けのない場所に響く笑い声、ベテラン猟師が行き迷う分かれ道、忽然(こつぜん)と現れる夜店のにぎわい-。山には狐(きつね)や狸(たぬき)の仕業と語られるような怪しい「何か」がある。
長年、マタギや狩猟など山に関する取材を続けてきた著者が、山間部に暮らす人、猟師や修験者などのさまざまな体験談を書きとめた。平成27年6月刊行の前作『山怪』は「現代版遠野物語」として話題になり、9万1000部のベストセラーに。続編に当たる『山怪 弐』も、今年1月の発売前に2刷、発売1週間で3刷が決まり、現在3万5000部と好調だ。
担当編集者の勝峰富雄さんは、「老若男女を問わず売れている。日本は山国。山独特の閉鎖的な怖さや、科学では解明不能なことを経験している人が多いからでは」と読まれる理由を分析する。
脚色のない淡々とした筆致だが、生活者の口から実際に語られたという重みがページを繰らせる。「昨今ブームの怪談本のようなオチもないし、話も断片的。そこに逆にリアリティーを感じてもらっているようです」
山でも近代化、少子化が進み、伝承の場を失った「語り」は消滅目前。著者はすでに3作目を目指し取材中という。(山と渓谷社・1200円+税)
永井優子