筒井康隆原作映画祭! ライムスター宇多丸・プレゼンツ「筒井康隆ナイト」

イベントレポート

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■映像化しやすくないからこそ

 さっきもチラッと言いましたが、筒井康隆さんの小説って、映像化作品が非常に多いんです。一九七四年の「俺の血は他人の血」(舛田利雄監督)以降、あまり途切れずに映画化されてきました。テレビドラマ化も多くて、僕は子どもの頃、多岐川裕美主演のNHK少年ドラマシリーズで「七瀬ふたたび」(79年)を熱心に観ていたのを覚えています。

 でも、今日は愛読者も多いでしょうが、筒井康隆先生の小説は映像化しやすいわけではないと思うんですよね。だけど、決して映像化しやすい原作でないからこそ、どの映画も意欲的というか、作り手の戦略や情熱が見え隠れして、出来不出来を超えて、どれも面白いんです。「この映画は価値あるものだ」と思わせるところが必ずあるんですよ。

 で、今夜上映する作品について簡単に触れていきますと、まず「ウィークエンド・シャッフル」。自分の番組名にするくらい好きな作品ですけど、筒井先生の作品の中ではものすごく有名な作品というわけではないんですよね。なのに、このタイトルを自分の曲などにつける人が多いのは、中村幻児監督版が果たした役割が大きいんじゃないか、という気もします。映画の公開当時、僕は中学一年生で、まさに筒井康隆に目覚めた時期で、この映画を有楽シネマに観に行ったらハマってしまって、何度も観ることになりました。僕の印象を言えば、よく言えばロバート・アルトマンふう、あるいはポール・ハギスの「クラッシュ」(04年)ふうの群像劇で、いろんな場所でいろんな人が自分勝手に行動しているのが、やがていろんな具合にクロスしていくんですね。もちろんアルトマンなどと較べると、群像劇として粗っぽいところはあるんですが、それも味になっています。

 また、後半になるにつれて、リアリティの次元がちょっとズレていくんです。例えば「時をかける少女」や「七瀬ふたたび」あたりは、物語内のリアリティ・ラインが一定ですよね。だからこそ、比較的映画にしやすいと思うんだけど、「ウィークエンド・シャッフル」の場合は、リアリティの次元がクライマックスで〈より虚構〉の方へひとつズレる。これが実に筒井康隆原作の映像化作品らしいなあと思わせるんですよ。

 ヒロイン役は秋吉久美子ですが、この頃、森田芳光監督の「の・ようなもの」のトルコ嬢・エリザベスとか、よく濡れ場的なシーンを演じてましたね。この映画でも脱いでいます。男の俳優だと、何といっても泉谷しげるが素晴らしい。

 次は「俗物図鑑」。内藤誠監督作品ですが、この映画の翌年、大林監督版「時をかける少女」で、原田知世のお父さん役をやっているのが内藤監督です。ついでに言うと、教室で、原田知世の前の席ではしゃいで悪目立ちしている(笑)生徒役が、内藤監督の息子さんの内藤研。本当に役に立たない知識ですね。さらに言っておきますと、先日別の場所で本作の解説をたっぷりしまして、いよいよ「深町一夫(未来人と称している生徒)昏睡レイプ犯」説が強固なものになったんですけど、まあ今日はそこはいいです(笑)。

「俗物図鑑」は、原作は梁山泊みたいに立てこもった主人公たちがヘリコプターから攻撃されたり応戦したり、大アクションシーンがあって、とてもまともには映画にできないスケールなんですよ。そのへん巧く処理していて、アイデア賞ものの映画です。

「ジャズ大名」は岡本喜八監督らしいというか、いかにも筒井作品らしいというか、現実と虚構が入り乱れる按配がいいんです。幕末、黒人奴隷がアメリカの船から逃げて来て、鎖国中だから牢屋に入れられるんだけど、殿様以下侍たちにジャズを教えて大騒ぎ、気がついたら明治維新になっていた、という話なんですが、例えば字幕や吹き替えでの遊び方とか、さすが岡本喜八といったところです。

「パプリカ」は夢の中の描き方がシュールで、アニメならでは、です。今監督が亡くなるちょっと前にブログで、名前は出してないけど「インセプション」(クリストファー・ノーラン監督 10年)だとわかる形で「パクリカ」だと書いていました。確かに二つを見較べると、ノーランもちょっと言い訳できないんじゃないか、という場面はありますね。

 あんまり喋ると、オールナイトが終わる時間がどんどん延びちゃいますからもうやめますが、映画化されてない面白い筒井作品って、まだまだたくさんあります。暴挙中の暴挙ですけど、ついに『虚航船団』(さまざまな文房具が乗った宇宙戦艦がイタチの住む惑星を攻撃し全滅する長篇)を映像化するとかね(笑)。3DCGなら「ソーセージ・パーティー」みたいなことができるんだから、ナシじゃないんじゃないかと思うんだけど……。すみませんね、独り言が多くって。じゃ、僕もみなさんと一緒に筒井康隆原作映画を朝まで四本観ますので、デスマッチふうに楽しんでいって下さい!(会場拍手)

於・飯田橋ギンレイホール 三月十日深夜

新潮社 波
2017年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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