江戸城の全貌 萩原さちこ 著
[レビュアー] 高橋千劔破(作家・評論家)
◆歴史の刻印を探して
日本一の巨城であった江戸城は、江戸時代を通じて徳川十五代将軍の居城となり、諸大名の上に君臨すると共に、江戸のシンボルでもあった。本書は、その江戸城のすべてを判(わか)りやすく解説したハンドブックで、蘊蓄(うんちく)満載の楽しい本だ。
全八章からなり、第一章は総論で、江戸城についてその意義や特徴などを七項目にわたって解説。第二章は築城史で、太田道灌による江戸城の前身に始まり、家康の江戸入りによる築城以後、元和期の二代将軍秀忠による築城、さらに寛永期の三代将軍家光による築城を経て、維新時の無血開城から明治以後、現代に至るまでの江戸城が語られる。
第三章は天守閣について。家康・秀忠・家光によって築かれたが、江戸市中の六割を焼いた明暦の大火で焼失。以後築かれることなく現代に至る経緯が述べられる。なお家光による寛永天守は、現代の建物なら十五階建てのビルに相当。本丸の土地が標高約二十メートルなので、江戸城下から見上げれば八十メートルに及ぶ一大高層建築であったという。
第四章は御殿について。本丸御殿や大奥などでの将軍の生活が述べられる。興味深いのは第五章の石垣。ほとんどは伊豆半島から切り出され、船で江戸に運ばれたという。工事を担当した各大名がマークを付けた刻印石などがあちこちで見られ、石垣ウオッチングも面白そう。
(さくら舎・1728円)
<はぎわら・さちこ> 城郭ライター。著書『日本100名城めぐりの旅』など。
◆もう1冊
内藤昌(あきら)著『江戸と江戸城』(講談社学術文庫)。辺境の地に城下町が完成し、世界最大の都市になるまでの歴史を描く。